「ヒールなのにたくさん歩かせてごめんね。けど満足そうな透子ちゃんの顔が見れてよかった」
「たくさん歩いた甲斐がありました」
「はい、ご希望のサンドイッチもどうぞ」
そう言って紙袋から立派なサンドイッチとお手拭きを渡す彼を見て、この状況の非日常さを感じたら、このまま時が止まればいいのにと思った。
「ありがとうございます。お腹すいちゃいました。昨日からほぼ栄養源ビールですよ、私たち」
「たしかに。気持ちがいっぱいでお腹が空いてるのかわからなくなってたけど、流石に何か食べたいと思うくらいには俺も空腹」
そう言ったあと、大きな口でサンドイッチを頬張る彼を見て心が満たされるのがわかった。
こんな風に子供みたいにかぶりついて食べる時もあるんだ。
いつものお行儀のいい食べ方とはギャップがあった。
私もすこし硬めのバゲットに思い切って齧り付くと、軽快な音ともに口の中に小麦とバターの香りが広がった。
噛み締めた時の歯応えが心地いい。
「おいしいですね!外で食べるとなおさら」
ビールで流し込むとさらに爽快。
「美味しそうに食べるね。
普段あんまりパン食べる時ないんだけど、ピクニックにぴったり」
美味しそうに食べるなんて言われるほど、私の気は緩みまくっているんだろう。
すこし前まで音信不通にしようと思ってた相手とは思えないほど、彼の前の自分が自然体なことに気づいた。
「陽さんはもっぱら麦は飲むタイプですもんね」
「それ言ったら透子ちゃんもでしょ」
何気ないやりとりに歯痒い気持ちがした。


