まず俺は手筈通り、犬が小屋に入ったのを見計らってボロ屋に侵入した。もちろん堂々と玄関からさ。こそこそ窓だの裏口だのから侵入するような小賢しい真似、おれは絶対にやらねえんだ。
崩壊寸前のボロ屋は床が穴だらけでおまけにギシギシ音がしやがる。だがこんなことは予測済みだ。比較的木が腐敗していない箇所を選んで音を立てずに入り込むことに成功したおれは、真っ先に2階の寝室に向かった。獲物二人はそこで寝ている。我ながら無駄のない速さで寝室へたどり着いた。
さあ、やっちまおう。
いつもどおりおれの心は踊っていた。殺す前はいつもわくわくしちまうんだ。
まるで恋人にあうような気分で、おれは嬉々として寝室の扉をあけた。
その時の、あの場に広がっていた光景を見たときの驚きたるや!
おれ以外の誰にだって想像できやしないだろう。
寝室は血の海だった。
むろん、おれの右手のナイフは一滴の血も吸ってやしない。だが床は黒々とした真っ赤に染まっているんだ。
部屋の中央に、真っ赤な布団からはみ出たじじいとばばあが無茶苦茶な有様になって寝ていた。死んでいるんだ。
そうさ、おれが殺す前にこいつらはすでに死んでいた!
じじいの横に、素っ裸の身体を血に浸して立っていたのが、ガキだった。小さい手にまるで合わない包丁を持っていた。
「おい、なにしてる」
おれはついガキにそう聞いていた。我ながら間抜けな質問だと思うよ。らしくもなくおれは動転してたんだ。
ガキはまだ4つか5つなんだぜ?
じじいとばばあの骸を見りゃ、おれのあの心境を多少は理解できるはずだ。
腹わたすべて掻っ捌かれ、小腸が床にとびちって、首が胴体と切り離される寸前まで切れていた。
それを見たとき、おれは直感した。
おれは誤解をしていたらしい。
じじいどもがこのガキを嬲っているものだと思ったが、違ったんだ。
ガキがこの老いぼれを無邪気な遊び道具にしていたのだ。
なんということだ。こんな小さな子供が?
ガキはおれの問いには答えなかった。
言葉を知らない顔だった。
ただおれを見て、嬉しそうに笑って近寄ってきた。そしておれに血がこびりついた包丁を手渡した。

