このボロ家には長いこと誰も出入りしていない。時々犬の喚く声とガキの泣き声がするだけだ。
周囲の家は全部空き家だ。隣人は薄気味わりいこの家の外装と、また何度もこの家から聞こえる叫び声に恐れ入っちまって、こいつらを置いてみんなで村ごとトンヅラさ。
この近辺に疫病が流行りだしたことをこいつらはきっと知らねえだろう。おれが殺さずとも、きっとガキ諸共どうせ犬死の運命さ。そういう意味では、殺しの職業をしてる俺の唯一の不満点だ。
このボロ屋に住む老いぼれどもときたら、毎日ガキを殴り倒し蹴り倒し散々な扱いだぜ。
犬も犬でどこぞの肉をひったくってきてひとりで夢中で食ってやがる。きっとあれは同じ犬の肉だ。この辺には野犬が多い。殺して食っちまうんだ。飼い主が飼い主なら飼い犬も飼い犬だ。
じじいどももきっとそのうちガキを殺して食っちまうだろうよ。もうこの辺りに食いもんを与えてくれるところなどない。こいつら以外ひとりもいやしない村なんだからな……。
まあ、そのおかげで張り込みはラクチンだった。
毎日飽きもせずガキのしゃがれきった絶叫が響いてくる。叫び疲れちまって、もうガキの声もばばあみたいになっちまってるんだ。それに犬が偉そうに応える。
まったく奴等、たいそう楽しい人生だろうよ。
順風満帆で、神が祝福を与えたもうた、幸運の只中にいる呑気な奴等こそおれが最も殺したい対象だった。
天国から一変、地獄。
幸せしかしらねえようなツラした連中の恐怖に引きつったあの馬鹿面を拝むのが一番の楽しみだってのに………まあいい。依頼を受けた以上は皆殺しだ。
お、今日2度目の犬の呻き声だ。
3度目に犬がうめく頃、じじいとばばあが起きてくる。まずは老いぼれの腹を串刺しだ。犬はその次、ガキは最後だ。
はははは、楽しくなってきたぜ!

