~~次の日~~

いつも通りの朝。

玄関で、靴を脱いでいると、

「おはよう、太一君。」

艶やかな黒髪をおろし、色白い肌に大きい目。

他の女子よりも、何倍も可愛い彼女こそ、松原姫子である。

家の時のよりも清楚で、可愛い。

優等生感が出ている。

家でも、今みたいに、ハレンチな格好じゃない、普通の私服で、普通に過ごして欲しいものだ。

「ああ、おはよう姫子。」

靴箱に靴を入れながら答える。

姫子も、靴箱の方にくる。偶然にも、オレと姫子の靴箱は、隣なのだ。

「ねえ、太一君。」

そして、毎朝恒例のこの誘い。

「今日、私の家にこない?」

向いてはいけない。

姫子の方を向いてしまえば、オレは許可を出してしまう。

今日こそ、今日こそ姫子の誘いを断るんだ。

「いや、姫子。今日は悪いんだけど…」

姫子の方を向くと、そこには、今にでも泣いてしまいそうな彼女がいた。

「うっ…」

思わずうめき声を出してしまう。

今の姫子は、完全に美人モードだ。

いや、いつも可愛いんだけど、今は特別にだ。

「……ダメ?」

消えてしまいそうなくらいか細い声で言う。

「いや、行くよ。」

こうなっては、行くしかない。

そう言うと、姫子の顔がいっきに明るくなる。

「本当に?」

眩しい笑顔に、オレは思わず頷いてしまう。

「やった!」

今日も負けてしまったか…

ため息をつき、オレは姫子と教室へ向かった。

オレ達のクラスは、2年C組。

ここのクラスは、とにかくできる奴とできない奴の差がすごい。

オレみたいな平凡な奴が、珍しいくらいだ。

上は姫子の学年1位から、下は坂上の学年ワースト2位まで、幅広い成績がの奴が集まったクラスだ。

教室に入ると、朝から池田達アホ組が、騒いでいた。

「おお、太一、おはよう。また彼女と登校か?」

池田が茶化してくる。

毎朝毎朝、こりない奴だ。

「違うに決まってんだろ、靴箱で会ったんだ。」

「ほう?お前まさか、松原に合わせて!」

「違うわ。」

オレ達がこんなアホなやり取りをしている内に、姫子は自分の席で友達と喋っている。

変わらない日常。

これが姫子の学校の姿であり、表向きのオレの彼女だ。

正直、こいつの事はあんまり分からない。

学校ではこんなんだし、家ではあんなんだ。

今日は、金曜日。

明日から学校が休みだ。

オレにとっては、明日から姫子の買い物に付き合わないといけないと思うと、気が重い。

「太一君。」

姫子の方を向くと、彼女は手に紙を持っていた。

書いている文字を見ると、

"今日はゲーム一緒にしようね"

そう書かれてあった。

姫子の方をもう一度見ると、彼女はニッコリと笑っていた。