「神野、退職届は書いてきたか?」


「・・・・・いえ。」


「なんだよ準備の悪い奴だな。」



今日は春らしくない暑さとなった日。

夏になるとよく見かける光景だけど、

閉じた扇子をトントンと肩に当てながら、
多村課長は俺の周りを回る。



「良いこと教えてやるよ。

これまで奥村監察管理官が監査を担当してきた刑事の99.4%は退職届を出す。

残りの0.4%の奴らは恥もプライドも捨て、

左遷されたクソみたいな職場で、
ただひたすら終業の鐘が鳴るまで・・

窓から陽が沈むのを眺めるだけの“廃人”と化す。」


「・・・・・・・・・。」


「・・・また“刑事”に戻れると思うなよ?

お前が犯した過ちは捜査1課への・・いや全国の警察官への信頼を地に落とした。」


「・・・・・・・・・。」