「そうか、分かった」


うんうんと頷いた仁が、ふっと視線をあげた。


その時、あたしはおもわず目を見開いてしまった。


纏う雰囲気が一変したからだ。




「どう言ったってお前はここを抜けねえんだな」




その低い声をあたしは信じたくなかった。


その目は光を写してはいない。


漆黒の暗い目があたしを真っ直ぐと見据える。


大きく身震いしてしまった。


「…仁」


ああ、あたし、知っている。


その声はあの日の声とすごくよく似ているもの。


貴方と初めて出会った、ロンスタンダード街での夜。


『……誰だ、お前』



あの、可哀想な目を、見てしまった。