「あたしが仁と会ったところで、きっと会話は弾まないだろうから」
何を話したら良いのかさえ、今のあたしには分からなかった。
ただ、南と再会した日に、あの声を聞いた時。
『仁と千夏はずっと一緒だから』
それは別に良かった。
彼女のいつもの約束と同じだったから。
だけど、その日はそれだけじゃなかった。
『ああ、もちろん』
だからあたしはどうしようもなく、立ち尽くしたのだ。
打ちひしがられるように、ただ呆然と。
あたしはあの日以来、仁に話しかけることを躊躇うようになった。
仁とあの子のことを話して、恋人だとでも言われたらあたしはきっと立ち直れない。
そんな予想も、自覚もきちんとしていたからこそ。
あたしは何もいうことはなく、ただ仁を連れていく彼女をぼんやりと見送るのだ。