「和佳菜ちゃんが来たからって忘れてないよね?」


忘れる?


なにを。


あたしがここに久しぶりに訪れた頃、確か綾が言っていた。


『仁は不覚にもあいつのお陰で今があるようなもんなんだ』


気にならない、はずがなかった。

あたしを救ってくれたその人の過去を知りたくないと思うはずがない。


だけど、綾の前でそんなことを言ったら負けた気がして、なんだか言い出せなかった。


「仁を変えたのは、千夏だよ!」

なんだか彼女はヒステリーを起こしているようで、あたしの耳までよく聞こえた。


「…………な」


「そのお礼は仁自身がするんだよね!」


仁自身がする……。


「…」


「千夏のそばにずっと居てくれるんだよね…?」


なんだか泣きそうな声が聞こえてきた。


それだけでわかる。


随分と心を掴むことが上手なのだと。



「仁、仁…側にいて。千夏から離れないで」