「あたしも、勉強もスポーツも、頑張ってきた。それはママに褒めてもらいたかったから」
唯一の肉親に、褒めて欲しかった。
「…うん、だから。父様に日本に行けと言われた時。俺は本気で要らないんだって思い知った。だから、父様みたいにはならないって思ったし、その道は避けてきた。でも」
Breakとの出会いが、彼を変えたのだろう。
「Breakに出会って、簡単に一番になれた。今までやってきたこと、全部無駄じゃなかったんだって知った。だから、そこまでしたらこの街全体を俺のものにしてやろうと思った、けど」
銃口が仁に向いた。
「この男だけは違った」
カチャリ、と指を引き金添える。
「俺がどれだけ立ち向かっても勝てなかった。簡単に壊された。俺は一番になれなかった。その屈辱をこいつは知らない」
「知らない?舐めんな!」
そう叫んだのは、綾だった。
「仁が今の強いのは、何回も負けたからだ。先代に何度も何度も手合わせしてもらって、何度も負けてボロッボロにされても立ち向かってきたから今があるんだ。たった一度、負けたくらいで弱気になるお前とは違うっ!」
「うるせえ!」
パァンと、綾に向けて撃った。
構えが甘かったから、綾に完璧に向かなくて掠らずに済んだ。
「裏切ったお前は黙って聞いてろ、この鼠野郎」
「…っ」
「それに関しては俺も賛成だけど、仁の努力を知らない人間に屈辱しらないとか言われたくないよね」
そう言ったのは。
「尼崎彗汰…」
「やっほうオヒメサマ。相変わらずフルネームで呼ぶの好きだね」
気分屋のスーパーマンだった。
「仁の努力は獅獣はみんな知ってる。…知らないのは、君くらいじゃない?」
「誰だよ!お前」
「和佳菜のことばっか調べてて、俺のことも調べないアホに名乗るつもりないよ。自分で調べたらあ?真田昌葉クン」
「テメェっ、舐めてんのか」
「なめてる。…って言ったらどうする?」
その時素早くあたしに再び銃口を向ける。
「この女を撃っても同じことが言える?」
「撃たせねえよ」