「貴方は呼び出された時刻には来ないだろうって思ってた。だから、見つかるように琢磨に跡をつけさせた。琢磨ならある程度の受け身が取れるし、やられているフリもできる」
琢磨は渋々だったけれど引き受けてくれた。
「貴方が主犯であること知ってから、Breakが来ることが予想できた。現に、来たんでしょう?」
だからみんなの袂が汚れていたり、肘や顔に傷があったりするのでしょう。
「ああ」
仁があたしにそう言った。
かくいうこの人は全くそのような形跡がないのだが。
「Breakのみんなにとっても、琢磨は伝説みたいな人なのよ。だから、多少は慢心する。人の心ってそんなもんよ」
気の緩みこそ、一番の弱みとなる。
「綾の話からBreakは大体500〜600の人数が押し掛けると踏んだあたし達は、攻撃を段階に分けた」
一、攻撃力に優れる者。
二、持久力に優れる者。
三、その両方に優れる者。
三は実質幹部の皆様で、この人達はすごく遊んでいるように見えるのに、裏でしっかり鍛えているのだ。
「慢心した人間の心に、攻撃力の強い人物を入れるとどうなるか分かる?」
大抵は心折れるのよ。
獅獣は全員で400ちょっとの団体だ。
数では勝てない。
だからこそ、頭を使って闘うのだ。
「次に持久力のある人間を投入する。一体の強さを発揮し続けられる人間が来ると、ただでさえ折れかけていた心はたちまち折れる」
ここにおいては、キリがない、と思わせることが大切なのだ。
持久力のある人間は簡単にはへこたれない。
どんなに戦っても勝てない。
負けることはなくても、勝てない。
勝利を求める軍団にはそれが心を弱くする。
「最後にそのどちらにも優れている人達を投入する。彼らの手はそんなに煩わせなかったはずだわ」
あたし達はBreakが準備している期間の何分もの一で戦わなくてはいけない。
No. 1とはいえ、毎日努力をしていたとはいえ、Breakに及ばないところも多いだろう。
だけど本能で動く人間とあたしたちの決定的な違いは。
どれくらい先の未来までを予想できるかだ。
先には沢山の選択肢がある。
それを全て知っていなければ、勝負には勝てない。
仁が嘲笑うようにサナダを見下ろした。
「お前は、琢磨さんのやられたフリを見抜けない時点で負けていたんだよ」
「……」
「あのひと、お前らの車が見えなくなった瞬間に飛び跳ねて、3人纏めて回し蹴りしてたんだぜ」
やっぱりあたしのおじさんは、親族で一番頼りがいのある男だ。



