ひとりの男が、人を掻き分けて出てくる。
その男と、サナダは目が合うと、途端にあたしを激しく睨んだ。
「…綾、テメェ」
「サナダさん、お久しぶりです」
「なんでお前が向こう側にいる?」
「なんでって、そりゃあ、サナダさんが約束守ってくれなかったからですよ」
「約束…?」
「あー、やっぱり忘れてた。俺の呼び名も忘れてるんですかね?」
ケタケタとひとり楽しそうに笑う。
サナダは眉を顰めたままだ。
「綾は綾とも読みますよね?女っぽくするために〈か〉までつけて、あやかにしたのに。あやかとの約束、本当に覚えてないんですか?」
「お前…っ!なりすましてたのか!」
「俺と、あやか。人物を2人作っただけです。あやかとの約束をどうぞ」
「…獅獣に手を出さない」
満足そうに綾が笑った。
「正解。でも、貴方はそれを破った。だから、俺は今こちら側に立っているんです」
「…っ」
貴方は悔しい思いをしているのかもしれないわね。
下を向いて、唇を噛み締めている。
仲間を奪うなんて許さない。
クスリと笑って、貴方を見つめる。
「ずっと準備してきた相手に勝つことなんて、とても難しいことかもしれない。だけど、不意打ちでないならあたし達は勝てる」
そう、勝てる。
勝てるって信じて疑わないのよ。
「ディビッドが奇襲をかけた日。彼らはひとりも勝てなかったことを後悔していた。だから、体力をつけた、知識を蓄えた、技術を磨いた」
あたし達の仲間は誰ひとり負ける未来を見ていなかった。
「あの日からずうっと練習しているの。訓練を重ねているの」
大好きだったゲームもやめて。
みんな毎日汗をかきながら訓練を続けていた。
「貴方達も復讐を夢見ていたのだと思う。でもごめんね、あたし達もそんなに甘くないのよ」
闘い方はひとつじゃない。
卑怯だっていい。
ルール違反でもいい。
そう教えてくれたのは、…貴方達裏社会の人間でしょう?



