彼が受付を済ませ、ホテルの最上階に通される。
あたしはその後ろをただただ着いていく。
ドアを開けると、そこには。
一面ガラス張りの世界が広がっていた。
「どういうこと?これって」
「ショウヨウ様、私はこれで」
「うん、ご苦労だったね」
あたしの声なんて全く無視して、黒スーツの男が離れた。
そして、サナダに一礼すると、すぐに目の前から消えた。
「だからっ、どういうことなの」
「和佳菜、さっきの答え、聞かせてくれる?」
「はあ?」
何を言っているんだこいつ、馬鹿なの?
答えも何も、質問しているのはあたしだ。
「意味がわからないんだけど」
「だから、俺のものになってよ」
いやいや、え、頭おかしいの?この人。
「ならないわ」
この人の思い通りになんかならない。
あたしが18になった時に本家に帰らなければいけないとしても、仁じゃない人と結婚しなければならないとしても。
その相手が誰であろうとも。
「あたしの人生に貴方が関わってくるメリットがないわ」
「あるよ」
ドサリ、とベットの上に押し倒される。
頭の中で危険信号な鳴り渡る。
「俺の女にしちゃえば、キミには子供ができるから」
黒く濁ったその目は。
誰よりも恐ろしかった。
「いやっ!」
「離しちゃダメだよ」
にんまり笑う。
怖い、怖い、この人怖いっ…!
数え切れない恐怖体験を味わってきたが、この人はそれとは別の意味で怖かった。
「やめてっ」
分厚く、頑丈な胸は押してもびくともしない。
男の女の差を、まざまざと見せつけられた気がした。
「いやっ!やめてっ、誰かっ…んんぅ」
強引にされるキスは、気持ちが悪い。
苦しくて堪らない。
吐き気がする。
せめて、空気を取り込もうとすると、そこから舌が侵食してくる。
「んあぁぁ、うんんっ」
「ディープは下手っぴだね。マーク様としてこなかったの?」
唇をそっと離すと、まだ余裕そうなこの男に心底ムカついた。
「…っはぁ…はぁ…、関係ないっ」
「俺が?…これから旦那になるのに?」
「だからっ、それはしないって…んぅん」
都合の悪いことは、聞かない主義らしい。
「…お祖父様と話はついてる。キミが本家に帰ってきたら婿養子になってキミと結婚するよ」