そのあとの彼の行動は実に素早かった。
「…おっと、キミに自由をあげると痛い目を見そうだね」
あたしの背後に回ると、あたしの首を片腕で締め、もう片方で頭に銃口を当てる。
「…っへえ、自分の名前嫌いなのね。知らなかった」
「いいや、俺のことよく調べたんだろ?ウザイネズミが一匹捕まったよ」
ゴロンと彼の足元に倒れたのは。
「…っ琢磨!」
「オジサンって、尾行下手なんだね。上手くかわしてきたけど、キミがパーティーを開催するって聞いたから連れてきちゃった」
クスクス、笑うその笑みが気持ち悪くて仕方がなかった。
「やっぱり大事なオジサンなんだね。…ならさ、どっちか選んでよ」
「選ぶ…?」
「そ。キミがこれから来る車に乗るか、このオジサンを俺が今この手で殺すか。…ああ、もうひとつ」
息がふわりと耳元に残った。
「キミがここで死ぬか」
きっと、今彼の顔は素敵な笑顔なのだろう。
不気味なほど、穏やかな。
「…乗るわ」
だってそうするしかないでしょう。
ほんと、上手に荒らしてくれること。
「和佳菜っ!」
仁の叫びに、真田はピクリとも動かない。
「いいね。その動じない感じ、俺スゲー好きだわ」
そう彼が嗤った直後。
倉庫のシャッターが急に開いて。
黒いバンが一台猛スピードで入ってきた。
そのままあたしと、真田の前でUターンして止まると、スーツを着た男がひとり、降りてきた。
そして、天井に向けて1発。
それが偽物ではないことを証明してから、周囲に対して、銃を構えた。
「どうぞ、オヒメサマ」
銃を突きつけたまま、締めていた首を緩めた。
まるで、これから舞踏会に行くみたいに。
右手を出してエスコートした。
ここに帰って来られないとしても、計画通りにことを運ばせなさい。
あたしは、振り向いて、彼にそう目で合図を送った。
どうかその意味が伝わりますように。