「…知らない」
呟いた言葉は、多分佐々木さんにさえ届かなかった気がする。
「知らない知らない!そんなの知らない!僕は…ぼくは!何も知らない!」
パァンと一発、金色の弾が天井へと打ち上げられた。
そして、カチャリ、と向けられた黒い塊は。
簡単に人を殺せる武器だ。
「和佳菜!」
仁が叫んだのを耳は受け取った。
だけど彼の方へと、目は向けられなかった。
この男から目を離せばその時。
確実に死ぬって、本能で悟ったからに違いない。
「来い!」
この人は知っているんだ。
あたしをとても大切に思っている仲間が。
あたしに銃を向ければ動けなくなることを。
両手を挙げて、ゆっくりと近づく。
「和佳菜!」
仁の声がまた聴こえる。
「そのまま、両膝をつけ」
右、左、と降ろした。
立ち膝をしたあたしに、男はほくそ笑んだ。
「そのまま伏せろ」
それはもう、降参のポーズだった。
「君の探偵ごっこはもうおしまいだ」
ぐいっと、自慢の黒髪を引き上げられる。
痛い、声が出ない。
「…っ」
「僕がどうして君の質問に正直に答えたか知ってる?」
「…いいえ」
「ここで全てを終わらせる為だよ。キミさえ居なくなれば、全てが丸く収まる」
「なんで…っ、あたしを?」
「僕に殺された人間は地獄に堕ちるんだって」
「…ぇっ?」
「マーク様は部下にやらせたから僕じゃない。でも、…僕のマーク様を奪った張本人には、地獄に堕ちてもらわなきゃでしょう?」
クスリ、と笑ったこの男は。
「サヨナラ」