あたしの記憶の中をどんなに探っても、あたしを好きという仕草は現れなかった。
あたしが鈍いから、と言えば勿論それだけだったのかもしれない。
でも、彼はあたし達を2人きりにするのを拒んでいたように思う。
あたしとマークがホテルに住んでいた時だって、ディビッドはマークを呼び出していた。
何かにつけて、呼び出しをくらう。
アランが呼んでいる、はまだいいとしても。
夕食の時間だ。
仕事の時間だ。
マークはもう23歳だった。
呼ばれないと何もできない歳ではなかったし、彼は呼ばれなくても行動していた。
そこまで呼ぶ必要があるのか、とあたしが思ってしまうほど。
マークはそのたびに少しだけ眉根を近づけてから、行ってくる、というのだ。
そういうのだ。
断れない何かが、きっとある。
2人を繋ぎ止めているものがきっと何かある。
これは一種の賭けだった。
これが恋愛感情ではなかった場合あたしはとんでもない勘違いをしていたことになる。
あたしを純粋に愛していたとしたら、逆上することだってある。
理由を聞かれたら答えられない。
正解はディビッドの中にしかないのだから。
こればかりは証拠は突きつけられない。
だから、彼には精神的なバランスを崩してもらう必要があった。
人は冷静になれない時ほど、正直になるのだ。
あたしよりも何枚も上手なこの人に正直に答えてもらうには、この方法しか無かった。
「はっ…まさか、ね。君が僕の気持ちを知っていたとは驚きだよ」
渇いた声だった。
まるで彼はもう何も持っていないとひけらかすように。
笑った。
その目は死んでいた。
「…ならば、余計に残酷なことをしていたのに気づいてる?僕の気持ちを知りながら、君はマーク様の側にいたんだね。その気持ちはどう?気持ち良かった?愉しかった?…僕を嘲笑って、嬉しかった?」
「すごく申し訳ないけど、あたしが貴方の気持ちを知ったのも、マークの音声データのお陰よ」
貴方とはそんなに関わっていないのだ。
今思い返せば、思い当たる節があったくらいで、そもそもディビッドのことはよく知らない。
「そのデータには、僕らのやりとりの全てが記録されてるんだろう?でも、僕はマーク様に好きだとは一度も伝えていないんだよ。それのどこに…」
「貴方がどうしてもマークを繋ぎ止めておきたいっていう気持ちが詰まっていたわよ」
音量を最大にした。
「っ…」
ディビッド、好きという言葉を伝えなくてもね。
知らないうちに、気持ちが溢れていることだってあるのよ。



