みんなみんな、馬鹿みたいに遠慮して。


どうして言わない?


どうして言えない?


あたしは仁に教えてもらった。


「あたしは仲間っていうのは、頼ったり、傷つけあったり、寄り添ったりして、共に成長していくものだと思っているわ。…それは、違うの?」


人間なんだから、間違えることだってある。


未だにあたしは蓮を置いていったあの日の行動は間違っているって思っている。


あたしを残して死ぬなんてあり得ないって今でも思っている。


あたしには仲間なんて居なかったから、死んでしまおうと思うほど絶望して、本気で生きているのを辞めようとした。


だけどここにいる人達には仲間がいる。


いいことも悪いことも、たくさん経験しながら共に成長しあえる仲間がいる。



「ねえ!違うの?って聞いてるの!答えなさいよ!」


違うはずがない。


ずっと一緒にここで暮らして来たんだ。


あたしなんかより、ずっと…お互いがお互いのことを分かっているはず。




「…別にお前らだけが理由じゃねえよ」


静寂を切り裂いたのは、綾の惨めな言葉だった。


「は?」


「蓮だって…蓮がマフィアに行ったのは、ここをでかくする為だったじゃねえか!」


「何を言っているの?ねえ、綾。貴方はなんて聞かされたの?」


「だって、あいつは獅獣を売ろうとした!写真だって見た!マークに会って金までもらってるのを見た!契約書だって見せられた!」


「それで、…信じてたっていうの?」


「…悪いかよ」


「それ、…どっちか分からないでしょ」


「は?」


「もらったのか、あげたのか」


「…見てないのに、そんなことなんで言えるんだよ」


「彼は、あたしの護衛になる前は闇金融の収集を担当してた。写真は多分その時のものよ」

彼がお金に触れる機会なんてそれくらいしかない。


「そもそもよく考えてごらんなさいよ。蓮は獅獣を卒業した身よ。彼がマークに売れると思う?獅獣はあくまでも銀深会の所有物よ」


「…っ」


彼が言葉に詰まる。


まるで、そう言われるとわかっていたかのように。




「ねえ」


黙る綾に、あたしはそっと笑いかけた。


「あたしが瑞樹に会って、何を聞いたか分かる?」


この人は、何を信じ込まされて生きているのだろう。


「蓮と綾に繋がりがあったか、聞いたの。瑞樹の一年後に来たのが蓮だから。彼なら知っていると思って聞いたの」


「…お前」


「綾。貴方は蓮と直接関わりがあるわね?」


「…どうせ全部知ってるんだろ」


「全部じゃないわ。全部知っているのは貴方だけよ」




「…俺は養子だ。俺の本当の兄貴が、…蓮ってだけ」