「んでだ!昌の話に戻すと、和佳菜の過去を知ってるやつを探してたんだよ、みんなで」
恥ずかしいのか、なんなのか。
赤くなった顔をして、勝哉が軌道修正した。
「…そうなんだよ。琢磨にはその為にあちこち行ってもらってたんだ。騙してるようなことしてごめんね、和佳菜」
「もう、…そうなってしまったことだから。何も言わないけど。でも、絶対に嘘は嫌。分かった?」
「はいはい」
「…もう」
「それで、千歳のバーでの人脈とか、俺の技術とか色々使って、どうやらそいつの通り名が白い仮面をした悪魔、てところまでは掴んだんだ」
「人物像は?」
「絶対に怒らせたらいけない人」
千歳にいちゃんがぽつりと呟いた。
「え?」
「俺の店の常連さんはそう言ってた。って言ってもその人も直接の繋がりは無いんだけど、見たこととか噂は聞いたことあるって。えげつない人脈の持ち主で…嫌われたら、人生破滅させられるんだと。どこに行くにも白い仮面をしていて、そいつが現れて、制裁を加える時が、悪魔みたいだって言うからその通り名らしいよ」
「和佳菜、めっちゃ怖い人に好かれたんだね」
「…本当に心当たりがないんだけど」
そんなに怖い人…もちろんマークの側にいたから、数えきれないくらいいたのだけど、寧ろいすぎて覚えていない。
「和佳菜が駆け引きした相手で、好意を持った人とかは?」
「…そんな人聞いたことないわ」
「んじゃ、和佳菜が見た制裁を加えてる最中で、一番怖かったのは?」
そう言われても…。
そう言われて、パッと思い浮かんだのは。
「ディビッド」
「は?」
「誰、それ」
「マークの側近。彼、あまり怒らないイメージがあったのだけど、一度だけマークの代わりに制裁を加えてる所を見たことがあるの。…あれは、本当に悪魔に見えたわ」
内部抗争が起きたことが、何度かあった。
仲間割れして、逃げた部下の内、中心となる人物…もう名前は忘れたけれど、その人が捕まった時。
マークは、全てをディビッドに任せたのを記憶している。
そして、その時彼はこう言い放った。
『死ぬまで床を磨いていなさい』
どこが、と思うでしょう?
違うのよ、これは比喩ではないの。
本当に死ぬまで、牢屋で床を磨き続けなければいけないの。
人間はね、同じことを何度もすることが出来ない。
いつかは飽きてしまうの。
だけど、そんなことは関係ない。
実際に死ぬまで。
彼は床を磨き続けなくてはいけない。
食事は1日一食。
ギリギリのところで生かされる、死ねない。
死ぬことは許されない。
だったひとりの孤独な牢屋で、監視カメラを10台付けられた、孤独部屋で。
監視されながら床を磨く。
休んだら警報機が鳴る。
管理人が来て、暴行を加える。
心を壊す、一番残虐な手段である。



