蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「んでだ!昌の話に戻すと、和佳菜の過去を知ってるやつを探してたんだよ、みんなで」


恥ずかしいのか、なんなのか。


赤くなった顔をして、勝哉が軌道修正した。


「…そうなんだよ。琢磨にはその為にあちこち行ってもらってたんだ。騙してるようなことしてごめんね、和佳菜」


「もう、…そうなってしまったことだから。何も言わないけど。でも、絶対に嘘は嫌。分かった?」


「はいはい」


「…もう」


「それで、千歳のバーでの人脈とか、俺の技術とか色々使って、どうやらそいつの通り名が白い仮面をした悪魔、てところまでは掴んだんだ」


「人物像は?」


「絶対に怒らせたらいけない人」


千歳にいちゃんがぽつりと呟いた。


「え?」


「俺の店の常連さんはそう言ってた。って言ってもその人も直接の繋がりは無いんだけど、見たこととか噂は聞いたことあるって。えげつない人脈の持ち主で…嫌われたら、人生破滅させられるんだと。どこに行くにも白い仮面をしていて、そいつが現れて、制裁を加える時が、悪魔みたいだって言うからその通り名らしいよ」


「和佳菜、めっちゃ怖い人に好かれたんだね」


「…本当に心当たりがないんだけど」


そんなに怖い人…もちろんマークの側にいたから、数えきれないくらいいたのだけど、寧ろいすぎて覚えていない。


「和佳菜が駆け引きした相手で、好意を持った人とかは?」


「…そんな人聞いたことないわ」


「んじゃ、和佳菜が見た制裁を加えてる最中で、一番怖かったのは?」



そう言われても…。


そう言われて、パッと思い浮かんだのは。


「ディビッド」


「は?」


「誰、それ」


「マークの側近。彼、あまり怒らないイメージがあったのだけど、一度だけマークの代わりに制裁を加えてる所を見たことがあるの。…あれは、本当に悪魔に見えたわ」



内部抗争が起きたことが、何度かあった。


仲間割れして、逃げた部下の内、中心となる人物…もう名前は忘れたけれど、その人が捕まった時。


マークは、全てをディビッドに任せたのを記憶している。


そして、その時彼はこう言い放った。


『死ぬまで床を磨いていなさい』


どこが、と思うでしょう?


違うのよ、これは比喩ではないの。



本当に死ぬまで、牢屋で床を磨き続けなければいけないの。


人間はね、同じことを何度もすることが出来ない。


いつかは飽きてしまうの。


だけど、そんなことは関係ない。


実際に死ぬまで。



彼は床を磨き続けなくてはいけない。



食事は1日一食。


ギリギリのところで生かされる、死ねない。


死ぬことは許されない。


だったひとりの孤独な牢屋で、監視カメラを10台付けられた、孤独部屋で。


監視されながら床を磨く。



休んだら警報機が鳴る。


管理人が来て、暴行を加える。



心を壊す、一番残虐な手段である。