あたしの強い口調に琢磨が一瞬黙った。
「あたしは、ずっと怖い。みんなと会えなくなるんじゃないかって、想像したら眠れない。蓮を、失ったあたしが…この社会の怖さをマークのそばにいてよく分かっているあたしが!…安心すると、本気で思っていたの?」
「…和佳菜」
「それも…あたしのせいで、琢磨をまた危険な目に遭わせるなんて……」
「和佳菜。それは勝手にやってることだよ」
そう言ったのは。
「…翔」
「琢磨さん含め、14代目の獅獣の人達も俺らも。みーんな、勝手やってる。和佳菜が大好きで、大事だから、…大切だから。護りたいって思ってる。だから、それは、和佳菜のせいじゃないよ」
「…でも」
「そうですよね?皆さん?」
「…餓鬼のくせに、進行しやがって」
「和佳菜のお陰ですから。…和佳菜が俺を強くさせてくれたんだよ」
翔の強さに、優しさに。
みんなの温かい言葉に。
救われたのは、これが一度目じゃない。
何度も何度も、みんなに救われて。
あたしはひとりで生きているんじゃないって気付かされるんだ。
「そういえば、さ。この前の手紙もフランス語だったよね?」
「この前の手紙って?なんか届いたの?」
「うちに襲撃が入った時に南が持ってたやつです。…これ」
昌さんに仁が手渡すと、昌さんは考え込むように目を閉じた。
「…愛してる、か」
「心当たりは?」
「ないわよ…」
「お前にしつこく言い寄ってたやつとかは?」
「いないはずよ。そういうことを言う人をマークが許さなかったから」
「…許さなくても心の中ではどう思ってたかなんて分からないよな」
「え?」
「…あ、いや。なんでもない」
「待ってよ、綾。どういうこと?」
彼は目を横に向けると、こう言った。
「だって、和佳菜くらいだったらさ。誰でも一目惚れとかしてそうじゃん?」
「…あたしくらいって、どういうこと?」
「うん…和佳菜はそういうとこがあるんだよな。よしよし、俺の可愛い妹だ」
「誰も勝哉の妹になったなんて言ってないけど?というか、そういうとこ、ってどういうとこ?」
分からない。
だけど、あたし以外のみんなは分かっているらしい。
なんだろう。
急に悔しくなって来た。
そう思っていたら、勝哉がプルプルと拳を振るわせて…叫んだ。
「…い、いい加減気づけ!鈍いんだよ、お前」
「はあー?鈍いですって?そこはもう改善されたわよ!」
「どこがだよ!他人のことに関しては治ったかもしれないけどよ!自分に向けられる好意には一向に気付かねえじゃねえか!」
「…え?誰か、あたしのこと好きなの?」
「………」
「………」
「やっちゃったねえ、勝哉。お姫様、全く気づいてなかったよ?」
「…昌、てめえ」
「いや、俺に怒らないでよ。ってほら、…仁が怖くなってるから、さ」
ふと、仁を見つめると。
「どうしたの、仁?すっごく眉間に皺が寄っているけど」
「「「「「「「「お前のせいだよ!アホ!」」」」」」」」
綺麗に怒鳴り声が揃う光景を、あたしは初めて見た。



