「…やっぱり」


「なんだ、知ってたのか。昌はお前にずっと知られないように頑張ってたのによ」


「ずっと?どういうこと?」


「…和佳菜が日本に帰るって、知った時。俺は必死に和佳菜を止めたよね?」


「そういえば…そうだったわね」


ママと2人で下した決断を、獅獣の情報をずっと伝えてくれた昌さんに報告したのだ。


そうしたら絶対に行くな、言われて。


なんだかよく理由も知らされないまま必死に止められた。



うん、まあ、従わずに日本に来たんだけど。


「…和佳菜のおじいさまの誕生日パーティーのあの日。琢磨は襲われて、半殺しにされ、森に捨てられてた。…俺が見つけた時は、生死の境を彷徨ってた」


三途の川は行き来したかもなあ。


なんて、本人はお気楽そうに言っているけれど、昌さんは真剣な顔をしていた。



「こいつの驚異的な回復力のおかげで今はもうなんともないけど、あの時は本当に死ぬかと思った」


「勝手に殺すなよ」


「…そしたらこいつのポケットにメールアドレスが書かれた紙が入ってた。フランス語だったから読めなくて、解読したら“気づいたら連絡しろ”ってあった。お前は誰だって英語で打ったら、長文のメールが来た。…全部フランス語で」


「無視んな、このやろ」


「…フランス語」


「なんとか解読したら、…和佳菜についてだった」


「…え?」


「和佳菜の過去、ありとあらゆるもの全てが書かれていた」


ぶるり、と。


意思とは関係なく身体が震えた。


「…和佳菜のことはなんでも知ってるってこと?」


「そういうこと。…発信源まで特定できなかった分、イギリスにいて何もないならしばらく留まった方がいいと思ったんだ」


「要はお前に危害が加わらないようにする為に、俺らはその発信者を探してたの」


「…琢磨は、ずっと銀深会にいたんじゃないの?」


「まあ、銀深会にも世話にはなったけど、そこだけってわけじゃない。いろんなとこ転々としながら、お前を狙ってる奴を探してた。俺はずっとどこにも属してねえよ」


「じゃあ、なんで銀深会なんて…」


「俺が裏社会に関わっているのに変わりはない。どっか属してりゃ、お前も安心するだろ?」



「この社会にいて、安心したことなんてないわ」