あたしは結局、大嫌いな家に救われた。
ミズシマはアメリカでも有名な会社だ。
商品の質が高いと、話題の会社だった。
と、同時に祖父には警察に知り合いがいた、いや、とても仲の良い友人が。
祖父はその人の地位を上手く利用して、圧力をかけた。
「祖父は、あたしが可愛くてしかたなくて、本当にしていないけど、盲目的にあたしを信じていた。だから、あたしは…不起訴になって、刑務所から出られた」
あたしは、会えるって信じていたの。
祖父の力だろうとなんだろうと、関係ない。
彼に、マークにさえ会えればそれでいいって、本気でそう思っていたの。
だけど、そこに。
マークはいなかった。
「待っていたのは、ママだけだった。…帰ろうと言ってくれたのも、大好きと、愛してると言ってくれたのもママだけ。あたし、その時思ったの。…ああ、本当に終わったんだって」
ひとは絶望すると、どうすることも出来なくなると、その時知った。
泣くことも忘れて、生きようとも思えなくなった。
ただ、人形のようにぼんやりと空を見上げて、決められた時間に味のしないご飯を食べて。
生きていて、いいことなんてないって気がついた。
その時、ポンと頭の中にある言葉が出てきた。
〈…蓮を見殺しにしたのはあたし〉
おじいさまは、あたしのためだと言ったけれど、少しも嬉しくなかった。
嘘に嘘を塗りつぶして、真っ黒になった。
黒くて汚い、そんな人間になった気分だった。
「黒くて汚い、醜い人間なんか、居なくなってしまえって思った。生きる気力も、意味も見出せなくて。蓮を殺してしまったなら、あたしが生きている資格はないと思ったの」
そう感じたら、あとは簡単だった。
あの時のあたしは恐ろしかった。
だって、死ぬ恐怖心がなかったんだもの。
死んだら、蓮と同じところへ行ける。
そう思えば、楽になれた。
「片道分の切符だけ手にして、電車に揺られていた。そして、どこだかわからない田舎町にたどり着いた。そこは海が綺麗な町で、崖もあった。…あそこからなら、死ねるかも。そう思って、崖まで歩いた」
あたしの頭の中には死のことしかなかった。
早く蓮のところに行きたい。
もうこれ以上苦しみたくない____________。
崖の上に立った。
この日は快晴で、青空が一面に広がっていた。
雲なんてなくて、ただただ綺麗な青がどこまで続いていた。
そんな日だった。
「足を1歩、2歩と進める。…この次を踏み出したら、確実に落ちる。絶対に、死ねる。そんな時に、そんな時に限って。彼が死んでから一度も思い出せなかった、最期の言葉が聞こえたの」
『和佳菜、幸せになって』