「目が覚めたら、そこは病院だった。日本で言う警察病院みたいなところ。マークの恋人ってだけで、あたしは重要参考人だった。あたし、彼に裏切られたのにね」


でも、なんでだろう。


裏切られたのに。


警察には、マークのことを何一つとして話せなかった。


黙りを続けるあたしに殴る警察官もいた。


水をかける警官もいた。


心の傷だって、身体の傷だって、少しも癒えていないあたしに、この仕打ちは辛すぎた。


「マークのこと、…本当はすごく言いたかった。でも、…何も言えなかった。あたしね、ずっとどこかで期待していたの。マークはここから出してくれるって。どこかでずうっと、…信じていたの」





…だけど、彼は。


あたしを檻から出してくれなかった。





彼が手を引けば、簡単にできることのはずだ。


警察官にも仲良しがいると聞いていたし、スパイもいたらしい。


その話を聞いていたあたしはすぐに冷たい檻から出られると思っていた。




「だけど、ね。一日経っても、2日経っても。全然出られないの」


「…和佳菜」


「取調べという名の拷問に、1週間、数ヶ月…どれくらい耐えたかな?…覚えてないや」


「和佳菜…」


「もう思い出したくもない。でも、いつまで経っても、彼は檻から出してくれなかった」


「分かったから!…分かったから泣くな」


泣くつもりなんかなかったのになあ。


ポロリ、と頬を伝う涙の感覚をはっきりと感じる。


あたしは生きている。


彼に捨てられて。



「その事実が、あたしを一番絶望させた」