「だけど、次の瞬間、拘束が取れた」


そんなことをするのはひとりしかいない。


蓮は見捨てることだってできた。


ひとりで防火扉まで、蓮なら行けた。


でも、彼は。


最後の最後の、最期まで。



あたしを守ろうとしてくれてた。



「蓮は戻って、力いっぱい押し倒してくれたの。あたしは反射的に走った。だけど、あたしが走った直後に、大きな柱が落ち、たの」



目の前で、蓮が抑えられながら叫ぶ。



『お姫様、行け。逃げろ、…早くっ!』



ずっと耳に残って、離れない。


彼の叫び声が、痛くて痛くて、しょうがない。



『俺はいい!…ゲホッ、和佳菜といれてよかった。…お前は、っ…はぁ、早くあんなやつから離れて、……行け!っ』


『でも!』




『俺の、最初で最期の命令だ。…いいな?いますぐここから逃げろ!』



『蓮っ……!』





『…………』



その言葉を聞いた瞬間。


泣きながら、走った。


防火扉まで、無事に走って。


入った瞬間に座り込んでしまった。


涙はもう止まらなかった。




そして、そのまま、パタリと意識を失った。