「彼らはゆっくり話を聴きたいから、今は生きてもらうと言った。警官に捕まるなんて、よくあることだけど、それは下っ端だからよくあることなの。…幹部が、逮捕された時の取り調べは地獄よ」


ここで生かされても地獄、死んでも地獄。


何を選んでも、あたし達を待つ未来は地獄しかなかったのだ。


彼も、あたしも、それを分かっていた。


分かって、あたし達は第三の選択を取らざる得なかった。


まるで、兄弟のように。


考えていることがわかった。



「あたし達は、逃げを選んだ。火の海だと思っていたけれど、柱がいくつか倒れて燃えているだけで、通れないわけじゃない。これでもあたし達は、生きることを取ったの」



あたしはまだマークを愛していたから。


蓮はきっとまだ、マークに使えていたいと思ったから。



まだやりたいこと、たくさんあったから。




「走った。2人で、長い廊下があるようでない、火の海を」



後から、長い廊下の先に防火扉があったと知った。


あたし達は、2人でそこに入りこむはずだったのだ。



…はず、だったんだよ。



「警官はね、優秀なのよ。あたし達よりも足が速くて、先も見えてた。…彼らは、呼吸ができる、酸素ボンベを背負っていたから。救急隊よりも先回りしていたのは、長年追い続けたスティーブン家の逮捕ができるって確信していたみたい」


先に捕まったのは、ガス欠したあたしだった。


「転んで、その隙を捕らえられた。酸素ボンベから出る呼吸器をつけられそうになった。あたしは抵抗したよ。だって、蓮を残して助かりたくないから。…あたしは、ひとりでは生きられないから」