蒼の花と荒れる野獣Ⅱ


「マークにも逆らえない相手って…。一体何者なんだよ」


「わからない。でも、ひとつ確かなことがある」


「なに?」


「マークを脅せるだけの頭脳がある、ということ。とても頭の良い人間よ」


「そんなの世界に山ほどいるってー」


「てか、マークじゃない人がそういうことするって、なんかメリットある?」


悠人が珍しく声を上げた。


「どういうこと?」


「マークだったら、蓮さんへの嫉妬とかわかるけど、狙いがわからない」


確かに。


蓮もあたしも、あの状況だったら死ぬかもしれないのだ。


蓮が生きて、あたしが死んだ場合は勿論。


両方生きる可能性もなきにしもあらずだけど、あたし達が死ぬこともありえる。


いや、寧ろ。


そうしたいって、思っていたら。



あたしと、蓮に殺意が向けられていたのなら。


「蓮さんが内部の人から恨みを買うような人間だとは思わないし」


翔がため息をついた時、あたしはまたあの日の光景を思い出していた。



あの男は知っていた。


蓮があたしの目の前では絶対にとどめを刺さないことを。


あたしにトラウマが残らないように。


配慮してくれていることを知っていた。


だから、絨毯に灯油を仕込むこともできた。


ライターを隠し持つこともできた。


それを知ることが出来るのは、彼に実際に殺された人間のみ。


つまり、やっぱり…内部から情報が漏れたと言う言葉以外で説明はできない。


「あの時」


「え?」


「あの時、あたしを殺すことは簡単だったはず」


あたしは、そのときマークに嘘をつかれたと思っていたからショックで。


その時、ずっと泣いてたから。


「でも、しなかった」


強い火の中。



「あの男はその中で、タンクを手に取った」



何が入っているかは、彼の目で悟った。


『駄目!』



叫んだけど、もう遅くて。



彼は一瞬にして火だるまになった。



あたりはあっという間に火の海になった。



あたし達はたった2人。



孤島に投げ出されたの。