「マークにも逆らえない相手って…。一体何者なんだよ」
「わからない。でも、ひとつ確かなことがある」
「なに?」
「マークを脅せるだけの頭脳がある、ということ。とても頭の良い人間よ」
「そんなの世界に山ほどいるってー」
「てか、マークじゃない人がそういうことするって、なんかメリットある?」
悠人が珍しく声を上げた。
「どういうこと?」
「マークだったら、蓮さんへの嫉妬とかわかるけど、狙いがわからない」
確かに。
蓮もあたしも、あの状況だったら死ぬかもしれないのだ。
蓮が生きて、あたしが死んだ場合は勿論。
両方生きる可能性もなきにしもあらずだけど、あたし達が死ぬこともありえる。
いや、寧ろ。
そうしたいって、思っていたら。
あたしと、蓮に殺意が向けられていたのなら。
「蓮さんが内部の人から恨みを買うような人間だとは思わないし」
翔がため息をついた時、あたしはまたあの日の光景を思い出していた。
あの男は知っていた。
蓮があたしの目の前では絶対にとどめを刺さないことを。
あたしにトラウマが残らないように。
配慮してくれていることを知っていた。
だから、絨毯に灯油を仕込むこともできた。
ライターを隠し持つこともできた。
それを知ることが出来るのは、彼に実際に殺された人間のみ。
つまり、やっぱり…内部から情報が漏れたと言う言葉以外で説明はできない。
「あの時」
「え?」
「あの時、あたしを殺すことは簡単だったはず」
あたしは、そのときマークに嘘をつかれたと思っていたからショックで。
その時、ずっと泣いてたから。
「でも、しなかった」
強い火の中。
「あの男はその中で、タンクを手に取った」
何が入っているかは、彼の目で悟った。
『駄目!』
叫んだけど、もう遅くて。
彼は一瞬にして火だるまになった。
あたりはあっという間に火の海になった。
あたし達はたった2人。
孤島に投げ出されたの。



