蓮はあたしが日本を恋しく思っていたから連れてこられた、あたしのための護衛だった。
だけど、蓮が側近になった頃、あたしは正直彼のことが嫌いだった。
『はじめまして、長瀬です。よろしくお願いします』
堅苦しくて、敬語ばかり使って。
『どの花が好きなの?』
着いてきて欲しくないところまでやってきて。
『堅苦しくて吐き気がしちゃう。敬語はなしね』
鬱陶しいから、敬語は無理やりやめさせてみたり。
『マーガレットが好きなの。ピンクのマーガレットの花言葉は、真実の愛ってなんだって。ね?素敵じゃない?』
花言葉を暗記させたり。
気づけば、楽しくて仕方なくなっていた。
それをマークがよく思っていなかったのは、知っていたけれど。
だけど、あたしの人生だし、好きに生きたいと望んでいたあたしは、彼の気持ちなんて考えていなかった。
だから、きっとああなったんだ。
「ピッ、と音がして。何かと思ったら、男が誰かに電話していた。気絶していたはずなのに。ニヤリと嫌な顔を見せた」
そして。
「“マーク・スティーブンの恋人がここに居る。捕まえたらいいこと聞けるんじゃね”」
彼の不敵な笑みの理由はすぐに明かされた。
「それから即座にライターに火をつけて、男は嗤った。そして、なんの躊躇いもなく、絨毯に落とした。まるで、この結末を知っていたかのように」
絨毯はあっという間に燃えた。
始めから絨毯に灯油を染み込ませていたらしい。
匂いに異常がしなかったのは、灯油独特の匂いを消したものを使用したからに違いなかった。
「あの男の狙いがマークのお金じゃなかったことを、あたしはその時悟ったの」
「どういうこと?」
「あの男はマークの指示で動いている、要は」
“これは、あたしと蓮の仲を切り裂くための罠だった、ということ。”



