蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「近くの部屋に連れ込まれて、あたしは椅子に座らさられた。手を後ろで組んで、手首足首は縄で縛られた。それから彼はどこかに電話し始めた。多分」


「マークのとこ、か」


琢磨の言葉に頷いた。


「お金を用意しろって。1000ドル。さもなければ、あたしを殺すと」


「10億…」


「あたしひたすらに怖くて。隙を突いて逃げることを選ぼうとしていたの。この人ひとりだけなら、逃げ切れるって思いながら、手首の縄を解こうとした」


マークの側にいるだけのかわいい女にはなりたくなかったから。


彼に迷惑をかけたくはなかったから。


だけど、そうしようとしていたのにはきっと心の奥のどこかで、彼が、マークが。



迎えに来てくれるって信じていたからに違いなかった。




「だけど、次の瞬間男の顔色が変わった。なんだかわからない叫び声を上げて、電話を切った。そのままよろよろとあたしに近づいて、あたしが座っている椅子を蹴り上げた」


訳の分からないまま蹴り上げられたあたしは、地面にゴロゴロと転がった。


どうして?なんで?


そんな気持ちだけがあたしを支配する。


「男はあたしの髪の毛を掴み上げて、言った。お前の彼氏、迎えに来ないって、と」


役立たずが、とも言われて。


またガツンと音を立てて、あたしを落とした。


だけど納得もいった。


この人がこんなに荒れている理由は、間違えなくあたしが使い物にならないからだと。



そして。



「お前は、マークに捨てられたんだ、と」




どうしようもない、ただの事実を。




あたしに突きつけて笑った。