蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「あの日は、…蓮とあたしはホテルに前泊した日だったの。パーティーが行われるホテルの上の階をマークが取ってくれていたの」


体が震えそうになるのを懸命に堪えた。


「和佳菜、落ち着いて」


そうよ、落ち着かなければ、いけないの。


蓮の死を。


伝えられるのはあたししかいないのだから。


「…もともとは、マークと2人で過ごすつもりだったから、一部屋しか取っていなかった。部屋を分けようという話にもなったんだけど、蓮に、今夜は危ないと言われていて」


「危ないって?」


「…詳しいことは教えてもらえなかったのだけど、多分この後のことを蓮は指していたのだと思う」


「この後のこと…?」


「そう、この後。…あたしたちは2人で夜を明かすことになった。ダブルベッドを蓮が譲ろうとして、あたしたち、言い合いをしてしまったの。本当に些細なことだけど、あたしが部屋を出て行ってしまって。その時に、知らない人に拉致された」


あの日。


廊下をひたすらに走っていたら、いきなり目の前が真っ暗になった。


『やっと会えたね、お嬢さん』


低い声、多分男の人。


真っ暗になったのは、その人が目を手で覆ったから。


あたしが咄嗟に動けなかったのは、その人が背中に冷たい拳銃を押しつけていたから。


恐らくは単独犯で、ほかに足音は聞こえなかった。


そのまま近くの部屋に連れ込んで、彼は。


『イイコにしていたら、何もしないよ』


そう言った。


一瞬であたしを殺せる道具を首にずらしながら、そう言った。