あたしは何も言えなかった。
彼の言葉に、頷くことも、否定することも出来なかった。
この現実全てを受け止めることなんてできなかった。
ただ。
「…綾、聞きたいことがあるの」
あたしは聞きたい。
今黙って、何も語らないこの男。
目線を下げたまま、ひたすらにこの時が流れるの待つ男。
「蓮さんのこと話すんじゃなかったのかよ」
「…じゃあ、いいわ。選んで。今か、蓮のことを貴方が本当に知った後か」
「本当にって、俺が誤解でもしてたって言いたいわけ?」
「そうよ!…貴方は、蓮のこともみんなのことも誤解しているわ」
「…お前に何がわかる」
「え…?」
「もう、いい。お前が誤解してたっていう、その話聞かせてもらうよ」
あの時聞こえた、低い地を這うような声が。
きっと貴方の本質だったのね。
息を吸った。
これから話す蓮の話は。
綾も誰も、知らない話だ。
「蓮は獅獣15代目の総長であり、あたしの護衛のエリート。…彼は」
そう言った時、突然ドアが開いて。
「久しぶりだな」



