蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「蓮さん…って」


戸惑ったように、翔の声が震えたから。


あたしはやっぱりと思った。


「蓮が獅獣を辞めた後のこと、やっぱり琢磨の代の人以外、誰も知らないのね」


「…え?」


「どうりで蓮のことを楽しく話せるわけだわ。蓮は…もう、いないのに」


「本当、さっきからおかしいよ、和佳菜。どうしたの?何があったの?てか、そもそも体調悪いんじゃ…」


「すまん。俺が勝手に言った嘘だ」


仁が頭を下げる、あたしも下げた。


あの嘘に乗ったあたしも同じだ。


「どういうこと?ちゃんと説明しなきゃわかんないよ」


翔が珍しく怒っていて。


あたしはぎゅっと、唇を噛んだ。


ごめんね、翔。


いっぱい不安にさせて、ごめん。


「昨日。仁の部屋に戻ったら、これを見つけたの」


机の上に置いたのは、白い紙と、真紅の薔薇。


「これは?」


「1週間後の0時。迎えに来るって書いてあったわ。差出人は書いていないけれど、南がくれた手紙の人と同一人物だと思う」


「…見てもいい?」


「どうぞ」


その封筒を丁寧に開ける。


中には、あの言葉が。


あたしの心を縛りつけた言葉が、待っている。


「ねえ、これって。仁の部屋にあったんだよね?」


翔があたしを再び見た時。


これほど悲しみに沈んだ目は見たことなかった。


「そうよ」


「あそこが、幹部以外入れないって、わかって言ってる?」


「ええ」


「それってさ」


口角の下がった唇は。


静かに、残酷な現実を告げた。



「俺らの中に裏切り者がいるって、こと…?」