仁が菅谷さんを呼ぶのではなく、運転してやってきた、そう、ここは。
「…ここって」
「覚えてるか?」
「忘れたりしないわ。だって、ここは。貴方と本音で語り合えた場所だから」
目に映るのは、満天の星空。
今日、ここの門が開いていて本当に良かった。
いつか、2人で千夏ちゃんのお話をしたところだ。
彼女は今元気だろうか。
…そういえば、彼女にMargaretに連絡してと言ったけれど、あたしあそこにはもういないんだった。
瑞樹、うまくこっちに連絡回してくれるかな?
佐々木さんだったら、多分スムーズに取り繋いでくれると思うんだけど。
「…なに、考えてる?」
彼に目を覗き込まれた。
「それは、…千夏ちゃん、元気かなって」
「俺のことは?」
「え?」
「俺のことは考えてないわけ?」
何を言い出すの。
「そんなわけないじゃない。仁のことはずっと…っ」
考えている。
そう言おうとしたのに。
「…んっ」
キスされたら、何にも言えないじゃない。
ゆっくりと、唇を離すと。
「不安そうな顔してる」
「するに決まってるわ。…だって、あたしずっと綾のこと、仲間だと思ってきたのに。犯人と繋がっているかもしれないのよ」
そう言えば、思い出したように仁がこちらをみた。
「そうだ。和佳菜、なんでそう思うんだっけ」
「…否定しないの?」
彼には否定されるって思ってた。
綾と、仁はずっと一緒に暮らしてきたんだ。
そうするはずないって、思うに違いないって。
そう言うんじゃないかと思ってきた。
「本当は和佳菜だって信じたくないだろ?でもそう言うんだからなんか絶対理由があるに決まってる。だから、ちゃんと聞きたい。お前がそう思う理由を」
誰よりも強くて、誰よりも優しいこの人が。
裏の権力者になるのは時間の問題だろう。
だから、あたしは話した。
綾とあやみさんの言葉に食い違いがあることを。
なんで白い仮面をした悪魔とマークが繋がっていると言えるのか。
そして、仁が放った言葉は一言。
「じゃあ聞こう」
「…何を?」
「本当のことを」
「そんなの…上手くはぐらかすに違いないわ」
「あいつと何年一緒にいると思ってる?」
「…それ、は」
「俺に嘘ついてもバレることくらいあいつは分かってる筈だ」
「仁は…綾のこと、どう思っているの?」
仁の意見が聞きたかった。
仁はどう思っているのか。
…綾を信じてるのか。
「…分からない。でも」
その瞳は綺麗で、格好良くて。
誰よりも強い。
「あいつは仲間だ」
「そんなの、…」
「仲間って言わないって?」
あたしの思考を読み取っている回答に、思わず目を見開いた。
「…どうしてわかったの?」
「だってそんな顔してるから」
一体どんな顔だったんだろう。
あたしはどんな顔で仁と向き合っているのだろう。
「それでも、なんでも。俺にとっては大事な仲間なんだ。仲間だからちゃんとぶつかるし、ちゃんと話を聞きたい。それが仲間ってもんじゃねーの?」
彼の揺るぎない瞳に、ああ、敵わない。
「うん…そうだね」
この人には敵わないって思ったんだ。
聞きたいことは聞けばいい。
それは簡単なことなはずのに、なかなかできない。
理由はわかる。
怖いから。
その答えがもし…あたしの想像するものと一緒だったら。
そう考えるだけでとても怖くなるから。
それでも前に進む為には。
やっぱりこの方法が正攻法だと思うんだ。



