蒼の花と荒れる野獣Ⅱ




仁が菅谷さんを呼ぶのではなく、運転してやってきた、そう、ここは。


「…ここって」


「覚えてるか?」


「忘れたりしないわ。だって、ここは。貴方と本音で語り合えた場所だから」


目に映るのは、満天の星空。


今日、ここの門が開いていて本当に良かった。


いつか、2人で千夏ちゃんのお話をしたところだ。


彼女は今元気だろうか。


…そういえば、彼女にMargaretに連絡してと言ったけれど、あたしあそこにはもういないんだった。


瑞樹、うまくこっちに連絡回してくれるかな?


佐々木さんだったら、多分スムーズに取り繋いでくれると思うんだけど。



「…なに、考えてる?」


彼に目を覗き込まれた。


「それは、…千夏ちゃん、元気かなって」


「俺のことは?」


「え?」


「俺のことは考えてないわけ?」


何を言い出すの。


「そんなわけないじゃない。仁のことはずっと…っ」


考えている。


そう言おうとしたのに。


「…んっ」




キスされたら、何にも言えないじゃない。




ゆっくりと、唇を離すと。


「不安そうな顔してる」


「するに決まってるわ。…だって、あたしずっと綾のこと、仲間だと思ってきたのに。犯人と繋がっているかもしれないのよ」


そう言えば、思い出したように仁がこちらをみた。


「そうだ。和佳菜、なんでそう思うんだっけ」


「…否定しないの?」


彼には否定されるって思ってた。


綾と、仁はずっと一緒に暮らしてきたんだ。


そうするはずないって、思うに違いないって。


そう言うんじゃないかと思ってきた。


「本当は和佳菜だって信じたくないだろ?でもそう言うんだからなんか絶対理由があるに決まってる。だから、ちゃんと聞きたい。お前がそう思う理由を」


誰よりも強くて、誰よりも優しいこの人が。


裏の権力者になるのは時間の問題だろう。


だから、あたしは話した。


綾とあやみさんの言葉に食い違いがあることを。


なんで白い仮面をした悪魔とマークが繋がっていると言えるのか。



そして、仁が放った言葉は一言。



「じゃあ聞こう」


「…何を?」


「本当のことを」


「そんなの…上手くはぐらかすに違いないわ」


「あいつと何年一緒にいると思ってる?」


「…それ、は」


「俺に嘘ついてもバレることくらいあいつは分かってる筈だ」


「仁は…綾のこと、どう思っているの?」


仁の意見が聞きたかった。


仁はどう思っているのか。


…綾を信じてるのか。



「…分からない。でも」



その瞳は綺麗で、格好良くて。



誰よりも強い。




「あいつは仲間だ」




「そんなの、…」


「仲間って言わないって?」


あたしの思考を読み取っている回答に、思わず目を見開いた。


「…どうしてわかったの?」


「だってそんな顔してるから」


一体どんな顔だったんだろう。


あたしはどんな顔で仁と向き合っているのだろう。


「それでも、なんでも。俺にとっては大事な仲間なんだ。仲間だからちゃんとぶつかるし、ちゃんと話を聞きたい。それが仲間ってもんじゃねーの?」


彼の揺るぎない瞳に、ああ、敵わない。



「うん…そうだね」



この人には敵わないって思ったんだ。




聞きたいことは聞けばいい。


それは簡単なことなはずのに、なかなかできない。


理由はわかる。



怖いから。



その答えがもし…あたしの想像するものと一緒だったら。



そう考えるだけでとても怖くなるから。




それでも前に進む為には。



やっぱりこの方法が正攻法だと思うんだ。