総長室に着いた仁は、この光景を見た瞬間に黙ってしまった。
「…赤い薔薇と、手紙?」
中身は確認した?と聞かれたから、それもまた頷いた。
そしてそのまま、手紙を仁に手渡した。
言いたくなかった。
コンピュータで書かれた文章だから、筆跡なんてわからない。
ただ、前に貰った手紙と、本当によく文章が似ているのだ。
「…来週か」
あの時の恐怖を。
増幅させるだけの、短い手紙。
「この馬のストラップは?」
「それは、…蓮にあげたもの」
「蓮さん…?和佳菜、お前蓮さんと知り合いだったのか?」
やっぱり、仁は全てを知らないんだ。
全部知っていたら怖いもの。
長瀬 蓮というひとりの勇ましい男の物語をこの人は知る必要がある。
でも。
「…和佳菜?」
全部言ってしまったら、仁はきっと離れて行っちゃう。
分かっていたから、今まで言わなかったの。
仁にだけは。
貴方にだけは。
綺麗なあたしだけを知っていて欲しかった。
「なあ、和佳菜」
その時、仁は。
あたしの手を掬い上げるように握りしめた。
「あそこ、行こっか」



