「どういうこと、和佳菜」
「さっき、総長室に…行ったら、ね」
それきり、口が動かなくなってしまった。
どうして?説明しなければいけないのに。
仁はあれを見ていないのだから。
口で説明しなければ、理解なんて出来ないでしょう?
なのに、どうして…。
あたしが口を開けないことを知った仁は。
「下に行ったらわかるんだな?」
とあたしに聞いてくれた。
強く頷くと、彼はあたしをやわらかく抱きしめてから微笑んで。
「じゃあ行こう。悠人、データよろしく」
「ん、りょーかい」
すまし顔でパソコンを叩く悠人はあたしのことなんか見たりしない。
「あと、さっきのことは」
「俺はなんも聞いてないけど」
「…助かる」
じゃあ行こう、と手を引く仁と出ようとした時。
「お待たせー!って、なになに。どーしたの」
翔と綾が料理を作ってきてくれていた。
「…和佳菜が体調悪いって言ってるから、下で面倒見てくる」
「あー、和佳菜みんなの処置やってくれて、おまけに俺のまで頑張ってくれたもんね。今までの疲れ溜まったんだね。ゆっくりおやすみ」
「まじか。どこが痛い?頭?腹?それとも熱っぽい?あー…体温計ってどこだっけ」
「そういうのは俺がするから」
なんて、仁があまりにも真剣な声音で言うから、みんな静まり返ってしまった。
その中で1人。
綾だけがぷっと笑い出した。
「ぶっ…あはは!やっば、和佳菜に惚れすぎだよ。んなことしなくてもだいじょーぶだって。取らねえよ」
「…んなこと考えてないけど」
「嘘つけ。…んま、いいや。体調万全になるまで起きなくていいからな。和佳菜、あとは俺らに任せろ」
「それは違うわ。あたしだって頑張りたい。だから、今は」
「大丈夫。分かってるよ」
ぽんっと、優しく置かれた手に涙が出そうになった。
違う、疑いたいわけじゃない。
ただ、ただ。
少しだけ、考える時間が欲しいの。