あたしは普段、携帯電話を持ち歩かない。
そういった癖がないことを何故か仁も知っているらしい。
不思議だ。
あたしのこと、よくみてるんだな。
まあ、それはともかく、携帯電話を今日も鞄の中に入れて置いたままだった。
総長室へと携帯電話を取りに行く途中、階段を降りていると。
「和佳菜さん!」
と誰からか声が掛かった。
「あら、慎太郎。どうしたの?」
「…あー、もう。名前じゃなくて」
「あ、ええと。高梨?…どうしたの?」
「ええと、…その、翔さんの様子が気になって。…大丈夫ですか?いつも起きてからすぐ、そっちの会議参加しちゃうんで。最近変なことないかなって」
「大丈夫そうよ。ありがとうね、心配してくれて」
「やっぱ、翔さんにはずっとお世話になってるんで。元気になって欲しくて」
照れ臭そうに笑った慎太郎にあたしも笑顔を返した。
そうすると。
「…和佳菜さんって自覚ないですよね」
と顔を背けて、言われた。
「なにが?」
「あなたの笑顔でどれくらいの人が死んでんか、もうちょっと分かった方がいいっすよ」
「…え、笑顔で人は殺せないわよ?どういうこと、慎太郎」
「…あー、もう。これだから、無自覚は嫌なんだ」
「無自覚?どこが?ねえ、慎太郎ったら!」
肩をつついても、振り返らない彼に少しむくれて。
「もう!…いいわ。あたし、総長室行ってくるから。教える気になったら教えてね」
と言って、彼とは別れた。
階段を降り、総長室へと向かう。
そして、そのドアを開けた瞬間。
足が、止まった。
「…なにこれ」