「翔のあの顔、初めて見た」
ぼんやりと仁がそう言った。
「あら、本当?」
「ほんと、ほんと。悔しいなあ。お前が先に翔の心に入り込めるなんて」
悔しいなんて言いながら、彼の横顔は清々しいようにあたしの目に映った。
「別に先ってわけではないと思うけれど。でも、翔のこと聞けてよかった」
彼には仕事を頼まない、と仁は言った。
「解決したら、膨大な量の処理やらせるから」
「あら、こわいこわい」
「いいだろ。それまで俺らが我慢すんだ。それくらい許して欲しいわ」
「ダメなんて言っていないわよ。…あ、でも、結局、この事件に関して翔の手は借りられなくなってしまったわ。ごめんなさい」
「大丈夫。綾と悠人と相談して、なんとかなりそうだってわかったから」
仁は前を向いた。
「戻るぞ。やることはたくさんある」