次の瞬間、バタンと大きな音が聞こえて。
「和佳菜!」
駆けつけて、あたしたちを引き剥がしたのは。
「けほっ、げほっげほっ、じ、ん…なんで…」
「高梨達が、なんか危なそうな翔の目を見て、俺らに教えてくれたんだ」
この部屋に鍵は付いていなかった。
だから、ここは本当の意味であたしたち2人きりの世界にはならなかったのだ。
「はっ、最後まで来て、ヒーローのお出ましかよ」
あたしはそっと、立ち上がった。
いじけている彼に、言うことは沢山ある。
だけど、なによりも先に言わなくてはいけないのは。
「そうよ。…このヒーローはね、あたしにとってもそうだけど、貴方にとっても、特別なヒーローでしょう」
目を覚ませ、翔。
ベッドにもたれるように力尽きて横たわる彼は。
とても、…疲れていた。
「ねえ、翔。貴方は誰も助けてくれないってそう言うけれど、本当にそう?仁が、ここに入れてくれた意味をよく考えたの?」
「ここに入れてくれた、意味?」
そう、翔は自他共に認める可哀想な人だ。
そんな人は所謂問題児で。
本来なら、決して、誰も仲良くなんてしたいなんて思わないのだ。
「……え、」
見開いた翔は、ようやくその意味を理解したらしい。
本当に遅いわね。
「彼だって、貴方を救いたいと思ったの。居場所を与えて、その苦しみから抜け出させようと思った。そうじゃないの?」
仁に答え合わせをすると、仁は少し照れ臭そうに笑った。
「当たりだよ、和佳菜。さすが、俺の彼女」
なんだか嬉しそうな仁にあたしも思わずクスリと笑う。
「当たり前でしょう」
あたしは仁の彼女であり、駆け引きが得意な女だったのだから。
「そして、翔にもう一つ教えてあげたいことがあるの」
ねえ、翔。
現実はそんなに甘くはない。
優しくもない。
だけど、この倉庫は。
何よりも暖かいものではないの?
勘違いをしている貴方は。
出会った頃の仁より、ずっとずっと可哀想だ。
「翔はさ、仁や綾、周りのメンバー達が、“救ってくれる”って思っていたのだろうけどね。別に誰も貴方を救えたりしないのよ」
そう、他人のことを救うなんて、そんなのカッコつけが言っているだけだ。
人の心の闇や苦しみは、あたしがそのまま感じることはできないの。
「己を救えるのは己のみ。貴方自身が戦って、貴方自身で勝たなくていけないの」
だってこれは貴方の人生だ。
厳しいことを言っている自覚はあるし、辛いことをわざわざ言葉にしていると分かっている。
「だけど、あたし達は貴方にたくさんの武器を持たせることができるの」
翔。
これを乗り越えなくては先は見えない。
だけど、貴方は1人じゃないの。



