蒼の花と荒れる野獣Ⅱ




次の瞬間、バタンと大きな音が聞こえて。



「和佳菜!」



駆けつけて、あたしたちを引き剥がしたのは。


「けほっ、げほっげほっ、じ、ん…なんで…」


「高梨達が、なんか危なそうな翔の目を見て、俺らに教えてくれたんだ」


この部屋に鍵は付いていなかった。


だから、ここは本当の意味であたしたち2人きりの世界にはならなかったのだ。


「はっ、最後まで来て、ヒーローのお出ましかよ」


あたしはそっと、立ち上がった。


いじけている彼に、言うことは沢山ある。


だけど、なによりも先に言わなくてはいけないのは。


「そうよ。…このヒーローはね、あたしにとってもそうだけど、貴方にとっても、特別なヒーローでしょう」


目を覚ませ、翔。


ベッドにもたれるように力尽きて横たわる彼は。


とても、…疲れていた。


「ねえ、翔。貴方は誰も助けてくれないってそう言うけれど、本当にそう?仁が、ここに入れてくれた意味をよく考えたの?」


「ここに入れてくれた、意味?」


そう、翔は自他共に認める可哀想な人だ。


そんな人は所謂問題児で。


本来なら、決して、誰も仲良くなんてしたいなんて思わないのだ。


「……え、」


見開いた翔は、ようやくその意味を理解したらしい。


本当に遅いわね。


「彼だって、貴方を救いたいと思ったの。居場所を与えて、その苦しみから抜け出させようと思った。そうじゃないの?」


仁に答え合わせをすると、仁は少し照れ臭そうに笑った。


「当たりだよ、和佳菜。さすが、俺の彼女」


なんだか嬉しそうな仁にあたしも思わずクスリと笑う。


「当たり前でしょう」


あたしは仁の彼女であり、駆け引きが得意な女だったのだから。


「そして、翔にもう一つ教えてあげたいことがあるの」


ねえ、翔。


現実はそんなに甘くはない。


優しくもない。


だけど、この倉庫は。


何よりも暖かいものではないの?


勘違いをしている貴方は。


出会った頃の仁より、ずっとずっと可哀想だ。


「翔はさ、仁や綾、周りのメンバー達が、“救ってくれる”って思っていたのだろうけどね。別に誰も貴方を救えたりしないのよ」


そう、他人のことを救うなんて、そんなのカッコつけが言っているだけだ。


人の心の闇や苦しみは、あたしがそのまま感じることはできないの。


「己を救えるのは己のみ。貴方自身が戦って、貴方自身で勝たなくていけないの」


だってこれは貴方の人生だ。


厳しいことを言っている自覚はあるし、辛いことをわざわざ言葉にしていると分かっている。


「だけど、あたし達は貴方にたくさんの武器を持たせることができるの」


翔。


これを乗り越えなくては先は見えない。



だけど、貴方は1人じゃないの。