いつもは外まで大騒ぎする声が聞こえてくるのに、今は音ひとつ聞こえない。
「仁、連絡は?」
「…入ってねえけど」
出かけるなら、総長に連絡くらい寄越すはずだ。
その時。
「…なに、これ」
電灯に照らされて見えた地面にある塊は、一見すると、黒っぽくて分からない人もいると思うけれど。
『和佳菜…!君だけは逃げるんだ!』
あの日のことを、今でもハッキリと覚えている。
嗅いだことのある、この匂いの正体は。
「…血だ」
その横には、金色に光る弾が、潰れて落ちていた。
背筋が急に冷たくなった。
「…まさか」
走り出そうとしたあたしを。
「まてっ!」
仁が慌てて腕を掴んで止めた。
「なんで?早く行かないと!」
「敵が残ってるかもしれないだろ」
ああ、あたし、全く冷静じゃない。
その可能性は否定出来ないのに。
あたし達は銃は絶対に使わない。
だからこれは明らかに外部からのおそらく…。
本業の仕業だ。
「和佳菜…。お前はここに」
「ついて行くわ」
意思のある目をしても仁は首を横に振る。
「危険な目に遭わせたくねえんだよ」
「みんなだって危険な目に遭っているかもしれないのよ?黙って見ているなんて、耐えられない」
「和佳菜!敵がわかんねえんだよ!勘弁してくれ」
「あたしは………!」
駄目だ。
何かあったなんて思いたくないのに。
涙が今から出てしまうなんて、こんなことおかしいのに。
「…獅獣の姫よ」
だから、絶対に逃げたくないの。



