あの後、仁が帰ってきて。
純夏さんは約束通り肉じゃがを振る舞ってくれた。
そして、あの話は誰にも言わないで、と釘を刺して。
彼女は仁にももちろん、誰にも言わないと約束をしてくれた。
そうは言っても人の口に戸は建てられないというもので。
黙ってくれているという確証はどこにもないから、早く言わなくてはと思っていた。
「ありがとうございました」
「いいえこちらこそ、楽しかったよ。また一緒にご飯食べようね」
にこやかに手を振る綺麗な人は、やっぱり只者ではなかった。
そんな人に不貞腐れたように睨む人物が1人。
「しばらく会うつもりないから」
小さな頃の話を純夏さんに暴露されて随分とご立腹のご様子だ。
「もう、仁」
いい加減機嫌を直したらいいのに。
「元はと言えば純夏が抱きついてたからこんなことになってんの。ちゃんと反省して、抱きつくのは旦那さんだけしてよ」
「そーねぇ。仁にも和佳菜ちゃんいるしね。考えなきゃなあ」
「そうじゃなくて、やめろ!」
変わらずにふわふわ笑う純夏さんに、仁が怒り狂ってしまいそうだったので。
「もう行きましょう?」
と呼び寄せて、菅谷さんが乗る車に乗り込んだ。
「よろしくお願いします」
「はい。仁さんは変わらずに不機嫌ですね」
「純夏が関わっていいことがあった試しがない。菅谷も分かってるだろ」
その言葉に菅谷さんがクスクスと笑う。
「まあ、昔から純夏様には散々泣かされていらっしゃいましたからね」
「仁って前泣かされていたんですか?聞きたいです!その話」
「あー!もう!菅谷まで!ほんと、俺の黒歴史を暴露するのはやめてくれ」
「黒歴史ってなに?」
「過去の過ちのことですよ」
さぞ楽しそうに菅谷さんが笑った。