「…純夏」
不機嫌な声がこちらに聞こえて、ベリっと引き剥がされる。
「仁ったら、もお!彼女ちゃん取られて羨ましいだけでしょ?」
「ちげえ、和佳菜が戸惑ってるから」
…なんせ、日本人はこういうのを嫌うと思ってきたから。
日本に初めて来たのは小学3年生の夏休み。
その時初めて出会った男の子に挨拶の為に抱き合おうとしたら、泣かれてしまった。
その時あたしがアメリカで生きてきたようには出来ないのだと、悟った。
以来、こんなことはなかったもので。
色々な日本人がいるのだと、そう理解した。
「驚かせちゃってゴメンネ!とーまも中にいるから、挨拶はそこからにしよう?」
「あ、…はい」
ぺろっと舌を出して笑う彼女は、綺麗、というよりは可愛いという言葉がよく似合う女の人だった。
「もー!そんなに緊張しないで?もしかして、とーまに緊張してるの?」
顔怖いしね、とくすくすと笑う純夏さんに、いえ、と小さく返した。
「そのとーまさんをあたし、存じ上げなくて」
さっきから聞く“とーま”とは誰のことだろうか?
「おれがどうかしたの?」
その時純夏さんの後ろからひょっこり男の人が顔を出した。



