車を走らせて10分足らず。


すぐにその時はやってくる。


「ガチガチじゃん。別に緊張しなくてもいいのに」


表情が固いあたしを見て、仁がケラケラ笑った。


「そういう問題ではないの。…従姉さんご夫婦よ?失礼があったら嫌なのよ」


「気にしなくていいんだけど」


「あたしが気になるの」


「んま、和佳菜が気になるならいいけど。あいつの方が非常識だからかしこまらなくていいよ」


非常識とは…?


仁の従姉だとは聞いたけれど、ホテル運営しているあたり歳上か、どう幼く見積もっても同い年だとは思う。


そんな人間が常識が欠けているなんて。


想像できないのだけど。


あたしの戸惑いなんかまるで気にしない仁はあたしの腕を取って、そっと自らの腕に絡ませた。


「…これで安心できる?」


ほんと、流石だ。


「ありがとう、仁」


心をぽかぽかと温める貴方は。


あたしのことを大切にしてくれる優しい人だ。




管理人室の前のインターホンを仁が押す。


《はあい》


「俺だ」


《え、だれ?》



……え?


誰って、従姉なのに分からないの?


「いつもそういう冗談言うのはやめろって言ってるだろ、純夏」


あたしの疑問を打ち消すように呆れたように仁はそう言った。


…そのノリ方が、あたしには理解できないわ。


《仁の反応が楽しいんだもんー。今開けるね》


どうやら住民側から鍵を開けられるシステムらしい。


プツリと切れた後、目の前の自動ドアが音もなく開いた。


「行くぞ」


「ええ」


エレベーターに乗り込み、仁が30のボタンを押した。


30階には部屋はひとつしかないらしい。


インターホンを押すと、バタバタとドアの奥で音がする。


「はあーい?あ、」


出てきたのはひとりの綺麗な女の人。


その人が。


「わっ!?」


いきなりあたしに抱きついた。