キャリーバッグに様々なものを詰め込む。
「あ、これ」
その時見つけたのは、もうその存在さえ忘れていたUSBメモリだった。
琢磨が置いていった、もの。
「そういえば瑞樹に渡せって言われていたのだったわ」
もう忘れかけていたその存在。
「これを機に渡してしまおうかしら」
あたしが本家に行かない限り会うことはないのだから、これからチャンスは少なくなるに違いない。
持ってきたものを全て詰め終え、キャリーバッグとUSBメモリを握りしめたまま階段を降りた。
「…本当に、お世話になりました」
改めて頭を下げると、2人は優しげに微笑んだ。
「好きに生きなさい」
佐々木さんはそう言って朗らかに笑った。
「仁の彼女ならその内会うだろうけど、ま、その時はよろしく」
そっけない挨拶は実に瑞樹らしい。
「また、会いに来るから」
「来なくていい」
「そんなこと言わないの!嬉しいくせに」
「うわ、うざ」
面倒くさい、という顔を隠しもしない瑞樹は、長子だけど全く長子らしくなかった。
「勘違いしていてごめんね」
そう言えば、彼はハッと目を見開いた。
見誤っていた、貴方のことを。
瑞樹は側近だったけど、全然近くなかった。
だからあたしは、知らなかった。
もっと狡い人間だと思っていたけれど。
そうではなかったみたい。
握りしめたUSBメモリ。
これは、やさしい貴方に渡すべきものだ。
「ねえ、瑞樹。忘れてしまっていて、遅くなってしまったのだけど、これ、琢磨から渡せって言われていたものなの」
差し出したUSBメモリを見て、瑞樹は僅かに目を見開いた。



