蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



キャリーバッグに様々なものを詰め込む。


「あ、これ」


その時見つけたのは、もうその存在さえ忘れていたUSBメモリだった。


琢磨が置いていった、もの。


「そういえば瑞樹に渡せって言われていたのだったわ」


もう忘れかけていたその存在。


「これを機に渡してしまおうかしら」


あたしが本家に行かない限り会うことはないのだから、これからチャンスは少なくなるに違いない。


持ってきたものを全て詰め終え、キャリーバッグとUSBメモリを握りしめたまま階段を降りた。







「…本当に、お世話になりました」


改めて頭を下げると、2人は優しげに微笑んだ。


「好きに生きなさい」


佐々木さんはそう言って朗らかに笑った。


「仁の彼女ならその内会うだろうけど、ま、その時はよろしく」


そっけない挨拶は実に瑞樹らしい。


「また、会いに来るから」


「来なくていい」


「そんなこと言わないの!嬉しいくせに」


「うわ、うざ」


面倒くさい、という顔を隠しもしない瑞樹は、長子だけど全く長子らしくなかった。


「勘違いしていてごめんね」


そう言えば、彼はハッと目を見開いた。


見誤っていた、貴方のことを。


瑞樹は側近だったけど、全然近くなかった。


だからあたしは、知らなかった。


もっと狡い人間だと思っていたけれど。


そうではなかったみたい。


握りしめたUSBメモリ。


これは、やさしい貴方に渡すべきものだ。


「ねえ、瑞樹。忘れてしまっていて、遅くなってしまったのだけど、これ、琢磨から渡せって言われていたものなの」


差し出したUSBメモリを見て、瑞樹は僅かに目を見開いた。