カランコロンと鳴ったベル。
その奥には待ち構えていたかのように、ふたりの男の人が立っていた。
「…ただいま」
そう言えば、瑞樹が目を細めた。
「おかえり、和佳菜」
…ああ、この人たち、全部知ってる。
全て知っていて、そしてあたしを。
「佐々木さん」
「和佳菜様」
「瑞樹」
「…なに。分かってるから、ちゃんといいなよ」
BAR Margaret
埃っぽい、いかにもその雰囲気を漂わせるその場所とも今日でお別れだ。
「お世話になりました」
頭を下げながら密かにごめんなさいと呟いた。
あたし、佐々木さんにも瑞樹にも沢山のものを貰ったのだけれど、何一つ返せていない。
だから。
「あたし、ふたりの探している人は引き続き探すわ」
「…和佳菜?」
恩返しはこうやってでしか出来ないのだ。
「いや、いいよ。やめとけよ。和佳菜はやっと、マーク様から逃れられるんだろ。お前が夢見たことが、やっと叶うんだ」
驚いた。
瑞樹が止めるなんて、あたし、予想しているなかった。
だけど、決めたことだ。
覆すのは柄に合わない。
「…あたしね、わかったことがあるの」
「何でしょう」
「どんなに頑張っても、もう闇の世界から出ることはできないみたい」
ママが逃れさせようと、暴走族がいない街を選んだはずが、転校してくるし。
琢磨の仕打ちだったとしても、それがどんなに仕掛けられたものだったとしても、過去は変わらない。
「だから逃げることはやめた。立ち向かうって決めたの。やれることは全てやる」
「そんな…。抜けられるかもしれないじゃん」
「仁の隣に居たいあたしにはもう無理な話よ」
クスリと笑えば、瑞樹が悲しそうに顔を歪めた。



