蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



カランコロンと鳴ったベル。


その奥には待ち構えていたかのように、ふたりの男の人が立っていた。


「…ただいま」


そう言えば、瑞樹が目を細めた。


「おかえり、和佳菜」


…ああ、この人たち、全部知ってる。


全て知っていて、そしてあたしを。


「佐々木さん」


「和佳菜様」


「瑞樹」


「…なに。分かってるから、ちゃんといいなよ」



BAR Margaret


埃っぽい、いかにもその雰囲気を漂わせるその場所とも今日でお別れだ。


「お世話になりました」


頭を下げながら密かにごめんなさいと呟いた。


あたし、佐々木さんにも瑞樹にも沢山のものを貰ったのだけれど、何一つ返せていない。


だから。


「あたし、ふたりの探している人は引き続き探すわ」


「…和佳菜?」


恩返しはこうやってでしか出来ないのだ。


「いや、いいよ。やめとけよ。和佳菜はやっと、マーク様から逃れられるんだろ。お前が夢見たことが、やっと叶うんだ」


驚いた。


瑞樹が止めるなんて、あたし、予想しているなかった。


だけど、決めたことだ。



覆すのは柄に合わない。


「…あたしね、わかったことがあるの」


「何でしょう」


「どんなに頑張っても、もう闇の世界から出ることはできないみたい」


ママが逃れさせようと、暴走族がいない街を選んだはずが、転校してくるし。


琢磨の仕打ちだったとしても、それがどんなに仕掛けられたものだったとしても、過去は変わらない。


「だから逃げることはやめた。立ち向かうって決めたの。やれることは全てやる」


「そんな…。抜けられるかもしれないじゃん」


「仁の隣に居たいあたしにはもう無理な話よ」


クスリと笑えば、瑞樹が悲しそうに顔を歪めた。