その温もりで誰なのか理解する。


「仁?どうしたの?」


力だけが強くなる。


「…いなくなったかと思った」


「え?」


「起きたらいなくなってて。あれが夢だったんじゃねえか、って思って」


仁の手にそっとあたしの手を重ねると、その手はブルブルと震えている。


…あの大声って、もしかして。


「…勝手にどっか行かないでくれ」


ふと見ると、壊れた椅子や傷のついた机が転がっている。


貴方が不安になって、暴れたって、そういうことらしい。


「ねえ、仁。机の上の置き手紙ちゃんと読んだ?」


「…置き手紙?」


「そうよ。“ご飯を食べてきます”って書いてあるの。読みにくいけれど、読めるはずよ」


あれで日本の高校の試験を受けていたのだから。


読めてもらわなければ困る。


「……」


「あら、読んでなかった?なら一緒に取りに行きましょう?ちゃんと読んでね」


それからくるりと彼の腕の中で回転して。


「じーんっ?」


あたしから抱きつく。


「…んだよ」


「言ったでしょう?あたしはここにいる。どこにもいったりしない。大丈夫。ずっと側にいるよ」


離れていく恐怖が、貴方にはあるのね。


千夏ちゃんは黙っていなくなったって言っていたし。


黙って消えてしまうのが怖いのね。


あたしも気をつけなければいけないわ。


「…いなくならねえか?」


「ええ」


「ぜったいに?」


「絶対に」


大丈夫だよ、仁。



あたしだってもう。


貴方以外と共にいる気はないから。