「お待たせ」


コトン、と目の前に置かれたのは黄色いオムライス。


「好きなの?」


「好きというよりも思い出が蘇るの」


ここで作ってもらったのは、綾のオムライスだった。


一緒に暮らしているせいか、記憶の中のオムライスとそっくりだ。


「思い出?」


「ええ。オムライスってすごいのよ。心を暖かくするの」


「それって結局好きってことじゃん」


翔は“心を暖かくすること”と“好き”の差がよくわからないようだけど。


あたしにとってオムライスは好きとはまた違った特別なもの、なのだ。


色々なひとのオムライスを食べてきた。


みんなおいしくて1番なんて簡単には決められないけれど、密接する思い出はいつも優しい。


その優しさが欲しかった。


幸せだったけれど、ちょっと疲れてしまったから。


この暖かい優しさが恋しくなったの。


「わたしのぶんは?」


ドアからひょっこり顔を出した夢が寂しそうに翔を見つめる。


「夢は綾から作って貰えばいいだろ?」


「えー!いじわる!」


「夢、一緒に食べようよ。分けよう」


「俺は和佳菜のために作ったの!」


睨み合う2人に苦笑しつつ、いただきます、と手を合わせた。


「ひとくちくらいちょーだいね!」


「あげるよ、ちゃんと」


そう言いながらふわふわのオムレツとチキンライスを掬い上げて、口に放り込んだ。


「美味しい…」


「だろ?綾から習ったんだよ。あいつのオムライスは格別だよな」


ああ、だから懐かしい味がするのか。


綾のオムライスも美味しかったなあ。


オムライスと共にある思い出はいつだって鮮明だ。


最近だと、瑞樹もオムライスを作ってくれた。


言い合いになったのを佐々木さんが宥めてくれて、仲直りのオムライスだった。


瑞樹のほうはチキンライスが綾のより甘かった。


砂糖が入ってるのかもしれない。


今度レシピ聞いてみようかな。


綾が作ってくれた日の前の日は、仁と2人で志田に追いかけ回されていたんだ。


疲れて眠った後のオムライスは美味しくて。


だけどそういえばあの時、なんでもないように翔の秘密が隠されたんだった。


「翔」


「ん?」



「今幸せ?」