蒼の花と荒れる野獣Ⅱ





「お待たせ」


コトン、と目の前に置かれたのは黄色いオムライス。


「好きなの?」


「好きというよりも思い出が蘇るの」


ここで作ってもらったのは、綾のオムライスだった。


一緒に暮らしているせいか、記憶の中のオムライスとそっくりだ。


「思い出?」


「ええ。オムライスってすごいのよ。心を暖かくするの」


「それって結局好きってことじゃん」


翔は“心を暖かくすること”と“好き”の差がよくわからないようだけど。


あたしにとってオムライスは好きとはまた違った特別なもの、なのだ。


色々なひとのオムライスを食べてきた。


みんなおいしくて1番なんて簡単には決められないけれど、密接する思い出はいつも優しい。


その優しさが欲しかった。


幸せだったけれど、ちょっと疲れてしまったから。


この暖かい優しさが恋しくなったの。


「わたしのぶんは?」


ドアからひょっこり顔を出した夢が寂しそうに翔を見つめる。


「夢は綾から作って貰えばいいだろ?」


「えー!いじわる!」


「夢、一緒に食べようよ。分けよう」


「俺は和佳菜のために作ったの!」


睨み合う2人に苦笑しつつ、いただきます、と手を合わせた。


「ひとくちくらいちょーだいね!」


「あげるよ、ちゃんと」


そう言いながらふわふわのオムレツとチキンライスを掬い上げて、口に放り込んだ。


「美味しい…」


「だろ?綾から習ったんだよ。あいつのオムライスは格別だよな」


ああ、だから懐かしい味がするのか。


綾のオムライスも美味しかったなあ。


オムライスと共にある思い出はいつだって鮮明だ。


最近だと、瑞樹もオムライスを作ってくれた。


言い合いになったのを佐々木さんが宥めてくれて、仲直りのオムライスだった。


瑞樹のほうはチキンライスが綾のより甘かった。


砂糖が入ってるのかもしれない。


今度レシピ聞いてみようかな。


綾が作ってくれた日の前の日は、仁と2人で志田に追いかけ回されていたんだ。


疲れて眠った後のオムライスは美味しくて。


だけどそういえばあの時、なんでもないように翔の秘密が隠されたんだった。


「翔」


「ん?」



「今幸せ?」