「…ホテル街で見たの。綺麗な女の人と腕を組んで、歩いているところ」
「いつの話?」
「日にちはわからないけれど…あたしが、マークと一緒にいた時」
もう一年は経っている。
長いと思うでしょう。
だけどあたしにとってはそんなことはなかったのよ。
貴方を恨んで、泣いて、身も心も荒れて。
あの人がそれを利用しようとしていたんだって、わかったのは冷静になったそれこそかなり時間が過ぎてからではあるけれど。
それでも貴方があんなに綺麗な人と腕を組んで歩いている姿は嘘なんかじゃなかった。
ハニートラップとか、何かしら理由があったとして。
それでも、どんな理由でもやっぱり嫌だった。
おかしいよね。
あたしのものでもなかったのに。
悲しいなんて、それで泣いてしまうなんて。
おかしい人間だと、あたしもそう思う。
でも、そういう矛盾した心を持つのが人間なんだって。
忘れていた心が、きちんとまだ動ける状態にあったという事実が。
最近のあたしの小さな誇りでもある。
「…ああ、…純夏のことか?」
名前呼びに、ああやっぱりと。
あたしを落胆させるには十分だった。



