「…は?」


なんて言った?


そんな顔をしているからもう一度伝えてあげる。


「マークが死んだの。だから、弔いに、アメリカに」


「は?え?死んだ?あいつが?」


「…ニュースになっていたわよ。死んだって」


「そりゃ大々的にニュースにはなってたけど、あれはフェイクの噂があったから」


「嘘なんかじゃない。ちゃんと死体にも会ってきた。あれが嘘には見えない」


スティーブン家には不信感しかなかった。


だから、彼の家族に会うのは躊躇ったし、知り合いの使用人にだけ頼んでこっそりと入ることだって考えていた。


だけどあたしがあえて正面玄関から入ることを望んだのは。


「あたしも試していたの、あの家を」



あたしを誘き出すための格好の場だったはずだ。


誘拐でも、精神に大きな傷を生ませようとでも。


最悪殺人だって、あの家の人間になら可能なのだ。


だから何かをされるのだと、そう思っていたけれど。


「その感じだとなにもなかったんだな」


そう。


仁の言う通り何もないのだ。


もちろん、あたしが1人になることも、見知らぬ部屋にはいることもなかった。


向こうで出された食事には、一切手をつけていない。


ハーブティーにも口を付けなかった。


それでも全てを抜きにしても、気味が悪いほどに静かだった。


コクリ、と頷くと、力一杯抱きしめられた。


キツくて苦しくて、息ができないほどに。


「よかった…」


掠れた声が部屋に響く。


「え…」


「ほんとうに、無事でよかった」