もちろん唇ではなく額に、なのだけど。


「…っど、どうしたの?」


「それはこっちの台詞。上の空で全然話聞いてないだろ」


確かに…全く耳に入ってこなかった。


仁がふわりと微笑む。


「不安なら聞く。そうじゃなくても、嫌なこととかなんで聞く。だからひとりでかかえこむなよ」


仁はいつも暖かい言葉をくれる。


さっきまで人を殴っていた人とは思えないほどに。


「……なんか、解決した気がしなくて」


「他になんか大事なことがあったか?」


「ええ、何か大切なことを忘れている気がして…」


だけど思い出せない。


「思い出したらまた言うわ。それより、ね?重たいでしょう。早く降ろせるところに」


「重くなんかねえよ。なんならずっとこうしてやろうか?」


みんなの前でも、と囁いた仁に。


ほっと、顔が熱くなることを感じた。


「そんなことをしなくていいから!早く!」


はいはい、と笑う仁に負けた気がして、ぐっと歯に力が入った。