目の前には懐かしい古びた建物。


ここが獅獣のアジト、倉庫である。


中は綺麗にしてあるのだけど、外観だけならとても格好いい場とは言えない。


ここに行きたくても、あたしはずっと行けなかった。


チャンスはいくらでもあったのだ。


仁と夜に軟禁部屋から抜け出して千夏ちゃんの元に行った時とか。


佐々木さんと2人で大阪に行った時とか。


少し寄ってもいい?と聞けば、相手はどちらもいいよと言うに違いなかった。


それでもみんなに顔を合わせるには怖くて。


勇気が出なかった。


だけどね、抱えられたままなら逃げることなんてできないでしょう。


というか、逃げなくてもいいのだ。


ちゃんとお別れしてきたから。


あれがたとえ一方的であっても。


あたし達が結ばれることはもうない。


それだけがはっきりと誰の目にも分かっていること。


「…和佳菜、お前今何考えてた?」


てっきりすぐに入ると思っていたのに。


見上げたまま足を止めている仁に首を傾げながら答えた。


「やっと終わったなって」


「…そうだな」


マークが死んだことが終わりを意味するというのは残酷なことなんだろう。


それでも終わった。


マークは死んだ。


たったひとつの事実。


「あたしここに帰ってきてもいいのかな?」


だけど、抱えられている今だって迷っている。


全部終わった、はずなのに。


どうして心の奥に霧がかかるのだろう。


あたしは一体何に違和感を感じているの?


「いいの。俺が許可するから」


「…うん、ありがとう」


ああ、これじゃない。


ここにいることに違和感はない。


じゃあこの正体はなに?



あたしは一体…。


「わーかな」



その時。



いきなりキスが降って来た。