蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



彼は気付かない。


彼女の視線に、言葉に。


「仁っ!」


「和佳菜さん!危ないですよ!」


歩き出す彼女を慌てて止めようと手を引くと。


「大丈夫だから」


ふわりと笑って俺の手から丁寧に自分の手を抜いた。


そして、尚も無我夢中でなぐっている。


仁さんのその一発を。



「…止めた?」



パァンと音を立てて、彼女が受け止めた。



「仁、こっちを見て?」



その言葉をようやく面を上げた。



「…和佳菜?」


途端に冷静になった仁さんの声が、ロンスターダントにこだました。


「…なんで」


「貴方が人を殴っているって聞いたから、慌てて帰って来たの」


「…え、は?」


「帰って来た時に陽太から連絡をもらったの。ここを教えてもらって、それで」


美しい彼女は、微笑む。


仁さんの1発を受け止めるなんて、かなり痛いはずなのにそのその素振りさえなんて一切見せずに。


仁さんの目を見つめて、瞳を三日月型に変えた。


それだけで既に妖艶で、だけど儚い。


「和佳菜は消えたんじゃ…」


「消えないわよ?何言ってるの?大阪の時挨拶したでしょう?」


「…いや、だって」


知らないのは当然だ。


仁さんは彼女自身には何もしてない、見ているだけだ。


だから、消えたって思ってるのは、仁さんや事情を知る俺たちだけなんだ。


彼女は俺らに聞こえない声量でボソリと何かを呟き。


彼女は何を理解したのか、にこりと微笑み。


「…あたしは、何も言わないで仁の前から消えたりしないよ」





________大丈夫。



彼女は笑った。


美しく。


薔薇のように。




「だから帰りましょう?あたし達が一緒にいられるところに」