サツのサイレンがロンスターダントにこだます。
彗汰さん捕まらないといいけど。
まあ、あのひとは平気か。
「問題はこっちか」
あ、また標的変わってる。
まったく、あと何人重傷者出せば気が済むんだろう。
勿論、こっちからは吹っかけてない。
喧嘩は売らない、けど売られたら必ずかう。
もはや暗黙の了解と化してるけど、だからってあのチンピラ集団が弱い人間であることは総長なら一発殴って分かった筈だ。
あのなりだ、俺が分かったんだから総長が分からないはずがない。
分かった上でこの人は。
民衆の前で見世物にする様に痛めつけている。
理性が完全に失われているわけじゃない。
殺すとこまでいってないのは、そういうことだ。
“俺が機嫌悪い時に喧嘩吹っかけたらこうなる”
てことをみんなに見せつけてるだけ。
ほんと、そういう意味では頭がいいっていうか、尊敬できるっていうか。
行動は計算してるから、流石だなって思ってしまう。
こういう計算ができるなら、まず暴れないでくれって話なんだけど。
「三郷、状況は?」
「変わってねえに決まってんだろ。総長マジで俺らの話1ミリも聞いてねえもん。俺らじゃ無理だって」
「だよなあ…」
伊藤 三郷。
よく間違えられるけど、三郷が名前。
次期幹部と謳われる内のひとりで、頭脳派で、走りのルートや喧嘩の戦略決めに一役かってる。
ま、最近はその両方無かったんだけど。
「姫はまだ来ねえの?」
「さっき電話終えたばっかだから、あと40分は待たなきゃいけない。綾さんは?」
「向こうの処理で手間取ってるらしい。そっちに行きたいけど、翔さんだけじゃむずいって」
唯一止められる可能性を持ってるのが綾さん。
幼馴染の綾さんなら、止められるって期待してたんだけど。
「うちの総長、我を忘れるとやべえなあ」
三郷のため息に、俺は笑うしかない。
ほんっと、早く来てくださいよ、和佳菜さん。



