「もしかして…」
〈その走りで仁さんの一件を誤魔化そうとするみたいです。彗汰さんはもともと走り屋で有名なんですけど、その分警察から目をつけられていて、そのせいであまり倉庫に来ないんです。迷惑をかけるといけないからって〉
その彼が仁の為に一肌脱ぐつもりらしい。
やっぱりいいひとだ、尼崎 彗汰。
「じゃあ、陽太は殴られている人が死なないように助けてあげて。流石に仁を殺人犯にはしたくないから」
〈死なないようにはしてると思います。標的をコロコロ変えているので。ただ、そのせいで被害者が多くて〉
「大体何人くらい?」
〈少なく数えても…重傷者は7、8人ですかね。軽傷者考えると、余裕で二桁超えますね〉
「…馬鹿だねえ、仁」
〈それは…〉
「多くの人に迷惑かけて、ほんとに何しているんだか」
〈それは、和佳菜さん!貴女が、勝手に居なくなったからですよ!〉
陽太の珍しい叫び声にキョトンとした。
「え、あたし?」
〈和佳菜さんがいないとウチの総長不安定になるのまだ分かりませんか?どこ探してもいない。貴女の部屋の電気はついてない。佐々木さんに聞いてもはぐらかされるだけ。総長の中では大阪から帰ってから一度も貴女に会えてないことになるんです。この約1週間どこで何をしていたんですか?〉
…こんなに人に怒られたことなかった。
というか、え?あたしが悪いの?
「それってあたしが悪いってよりは」
どちらかと言えば、きちんと伝えなかった佐々木さんが悪いような…。
〈責任転嫁ですか?〉
「いや、え、…なんかごめんなさい」
とにかく…今は、急ぐしかない。
「着いたら連絡するから、一旦切るね。また何かあったら連絡して」
〈あ、はい〉
その声を聞いた後、会話を終了させた。
「瑞樹っこれ」
「今日使っていいって聞くつもりなんでしょ。一斉メールだけ打たせて。今日は連絡無理ですってやつ」
「あ、うん」
さすが、としか言いようがなくて、瑞樹には感服する。
携帯電話を手渡しながら、ぼんやりとしていた。
ほんと、仁って馬鹿。
「…誰かを巻き込んでもあたしが帰ってくるわけじゃないのに」
「なんか言った?」
「何にも」



